日本の文化を正しく味わえる社会でありたい

クラシックCDこの曲ベスト3 File-020

武満徹・系図

私の手元にある音楽之友社刊
「最新版名曲名盤500」には、
その名の通り500曲もの「名曲」が
掲載されています。
しかし日本人作曲家の曲は
1曲もありません。
自国の文化に関心の低い国であることを
情けなく思います。

世界に名だたる日本人作曲家の
代表格は武満徹でしょう。
そして武満徹の代表作は
「ノヴェンバー・ステップス」ですが、
これは一般的には
聴きやすい音楽とはいえません
(中学校音楽の鑑賞曲として
長年指定されているのですが、
中学生が聴いておもしろいと思うような
曲ではありません。
クラシック音楽嫌いを増やす
要因となっているような気がします)。
では何があるか?
「系図」です。

武満徹・系図

小澤征爾(指揮)
サイトウ・キネン・オーケストラ
遠野凪子(語り)

01 エア
02 系図
03 エクリプス
04 ノベンバー・ステップス
05 弦楽のためのレクイエム

この曲の目玉は
谷川俊太郎の詩の朗読であり、
語り手の印象がそのまま
演奏の印象となってしまいます。
遠野凪子の朗読は癖があるものの、
特異な世界観を創り上げています。
この曲の初録音の盤であり、
私はこれでこの曲を知り、
すり込まれた部分がありますが、
聴き比べても当盤が最高でしょう。
この曲の語りについては
「12歳から15歳の少女が望ましい」と
武満が言い残していますが、
録音当時、遠野凪子は15歳。
年齢条件に合致しているのは
この盤だけなのです。

山田一樹(指揮)
日本フィルハーモニー交響楽団
上白石萌歌(語り)

01 オリオンとプレアデス
02 夢の時
03 系図
04 ア・ストリング・
  アラウンド・オータム
05 ノスタルジア
06 星・島(スター・アイル)
07 弦楽のためのレクイエム

上白石萌歌の語りが
素晴らしいのですが、
それ以上に若い指揮者・山田一樹の
颯爽とした指揮ぶりも見事です。
何よりも録音が優秀で、
一つ一つの楽器の音が
鮮明に聞こえてきます。

バッティストーニ(指揮)
東京フィルハーモニー交響楽団
のん(語り)

01 チャイコフスキー:
  交響曲第6番
   ロ短調Op.74「悲愴」
02 武満徹:系図

こちらは当曲の最新録音(2018年)です。
何かと話題のアーティスト
「のん」の語りです。
NHKの朝ドラ「あまちゃん」で
ファンになりましたので、
期待して購入しました。
どう表現していいか分からないのですが
不思議な魅力があります。
癖のない(やや不器用な)、
いかにも彼女らしい語りです。
遠野凪子とは対極にあります。

以上が当曲のベスト3です。
なお、この曲の収録されているCDは、
この3枚のほかにあと2枚あります。
そちらも紹介しておきます。

小澤征爾(指揮)
サイトウ・キネン・オーケストラ
小澤征良(語り)

海外で発売された
当盤の語りは英語です。
日本人リスナー向けではありません。

岩城宏之(指揮)
オーケストラ・アンサンブル金沢
吉行和子(語り)

吉行和子の語りは素晴らしいのですが、
詩のイメージと合いません。
もっとも12歳~15歳で、
谷川俊太郎の詩の世界を理解し、
観衆を目の前にして
詩を情感たっぷりに暗唱する、
しかも音楽とタイミングを合わせて、
となると、それができる語り手を
選ぶのは至難の業でしょう。
当盤は、その年齢条件以外の
すべてを満たしているのですが、
やはり上の3盤にはかないません。

1996年に武満が死去した際、
欧米の新聞が大々的に報じたのに対し、
日本の新聞の多くが
他の経済人と同じ扱いでしか
訃報欄に載せていなかったと
記憶しています。
世界に誇ることのできる日本の文化を、
日本社会が軽視している風潮は
目に余ります。
日本の文化を正しく理解し、
正しく評価し、
正しく味わえる社会でありたいと
思います。

(2020.8.30)

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