コパチンスカヤのクロイツェル

愉しい・すごい・また聴きたい。

この衝撃的な録音が登場してから
すでに10年以上が
経過してしまいました。
コパチンスカヤのヴァイオリンは、
発表当時こそ賛否両論でしたが、
今ではその才能の素晴らしさに
異論を唱える方はいないのではないかと
思われます。

ベートーヴェン:
 ヴァイオリン・ソナタ
  第9番イ長調op.47「クロイツェル」
ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ
バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
ファジル・サイ:ヴァイオリン・ソナタ

 パトリシア・コパチンスカヤ(vn)
 ファジル・サイ(p)
 録音:2007年

何はさておき
聴いていて「愉しい」と感じる演奏です。
音楽を聴く愉しさを実感できます。
それはコパチンスカヤによって
吹き込まれた生命の躍動感が、
それぞれの曲から
伝わってくるからだと考えます。

コパチンスカヤのヴァイオリンは
やや硬質な音色ながら、
ナイフのような切れ味をもって
聴き手に迫ってきます。
1曲目のクロイツェル・ソナタが
圧巻です。
こんなにも情熱的なクロイツェルは
ほかに聴いたことがありませんでした。
荒ぶるように激しいフォルテ、
美しくたゆとうピアニッシモ、
まさに感情の起伏に富んだ
濃密な表現なのです。
「すごい」としか言い様がありません。

各種論評を見ると、「もはや
ベートーヴェンではない」という評価も
散見されます(ネガティヴな意味での)。
確かに伝統的な「クロイツェル」像とは
かけ離れていますが、
その後に続くラヴェルや
バルトークにつながる、
一つのヴァイオリンによる物語を
聴いているような気分にさせられます。
この選曲のセンスもまた
当盤の特徴であり、
「また聴きたい」と思ってしまうのです。

愉しい・すごい・また聴きたい。
これが当盤に対する私の印象です。

当盤の後に相次いで発表された
ベートーヴェンの協奏曲を始め、
バルトーク
ストラヴィンスキー&プロコフィエフ、
チャイコフスキー、
それらの協奏曲録音はどれも皆
素晴らしいものばかりでした。
最近は現代音楽の録音の多い
コパチンスカヤですが、
彼女の料理したブラームスや
メンデルスゾーンも聴いてみたいと思う
今日この頃です。

(2021.2.6)

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