リナ・トゥール・ボネのクロイツェル

熱いバロック・ヴァイオリン

数年前からネット上で
リナ・トゥール・ボネが
素晴らしいという評判を聞き、
CDを買わなくてはと思いながらも、
これまでは彼女の出すCDが
すべて古学の分野であったため、
手を出せませんでした。
しかし今回はベートーヴェンの
クロイツェル・ソナタ。
これは買わねばなりません。
さっそく購入し、聴いてみました。

「狂気のソナタ」
ベートーヴェン:
 vnソナタ第9番イ長調
  Op.47「クロイツェル」
 vnソナタ第10番ト長調Op.96

リナ・トゥール・ボネ(vn)
アウレリア・ヴィソヴァン(fp)
録音:2020年

リナ・トゥール・ボネのヴァイオリンを
はじめて聴きましたが、
クロイツェルはエネルギーが迸るような
熱い演奏です。
バロック・ヴァイオリンの
音色のせいもあり、
ところどころ咆吼しているように
聞こえる箇所さえあります。
確かな技巧を持っているのでしょう。
それが「流麗な美しさ」ではなく
「力強い表現」の方へ傾斜している
弾き方です。
何なんだ、このヴァイオリニストは!?
調べてみるとスペイン出身の美女。
なるほど、情熱的なわけです。

フォルテピアノ奏者の
アウレリア・ヴィソヴァンも
負けていません。
特にクロイツェルの第3楽章では
ヴァイオリンに絡みつくような演奏で
興奮させてくれます。
ヴァイオリンとピアノが
丁々発止でやり合う激しく熱い演奏。
クロイツェル・ソナタは
こうでなくてはいけないのでしょう。

クロイツェルは
コパチンスカヤも素敵でしたが、
このリナ・トゥール・ボネ盤も
間違いなく名盤として
今後記憶されていくはずです。

次の第10番では
一転してヴァイオリンとピアノが
見事に手を取り合って
音楽を創り上げています。
第9番と第10番はもともと
そうした相反する要素を持った
2曲なのでしょうが、
この二人はそれを明確に示しています。

ジャケットも素敵です。
第9番と第10番のコントラスト、
対峙するヴァイオリンとピアノを
象徴的に表現しています。

はじめはバロック・ヴァイオリンの
音色になじめませんでしたが、
2度3度と聴くうちに
その響きの心地よさを
味わうことができています。
しまった、こんな魅力的な
ヴァイオリニストのCDを
スルーしていたなんて。
聴き逃せないヴァイオリニストが
また一人増えてしまいました。

※YouTubeでクロイツェルの
 第1楽章だけ公開されていました。

(2021.2.20)

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