セムコフのシューマン交響曲全集

不思議な味わいのある一組です。

シューマンの交響曲全集のCDは
何がいいか?
私が好んで聴くのはガーディナーの
旧録音(1997年録音)なのですが、
次に手に取ってしまうのが
このセムコフ盤でしょうか。
指揮者が有名でもなく、
オーケストラも決して
うまいわけでもなく、
ジャケット・デザインも
相当に古くさいのですが、
不思議な味わいのある一組です。

セムコフ&セントルイス交響楽団
シューマン:交響曲全集(2CD)

Schumann

シューマン:
 交響曲第1番変ロ長調「春」Op.38
 交響曲第2番ハ長調Op.61
 交響曲第3番変ホ長調「ライン」Op.97
 交響曲第4番ニ短調Op.120

セントルイス交響楽団
イェジー・セムコフ(指揮)

セムコフの指揮は、
特に大きな特徴があるわけではなく、
きわめてオーソドックスです。
それでいて楽器の音がごちゃごちゃして
わかりにくいシューマンの楽譜を、
きちんと整理して展開したような、
見通しの良さがあります。
オーケストラも木管金管が
力づくになるようなことがなく、
弦と管がほどよく
調和された感があります。
シューマンの交響曲は、
こうしたバランス感覚が
大切なのではないかと感じます。
妙に気合いを入れすぎて空回りしたり、
丁寧にやろうとして
鈍重になったりしている演奏も
見受けられる中、
このセムコフ&セントルイス響の
仕上がりは素晴らしいと思っています。

この指揮者・イェジー・セムコフは、
ポーランド出身で、
フランスに帰化した音楽家です。
ムラヴィンスキーの助手を務めたり、
エーリヒ・クライバーやワルターに
師事するなど、
それなりの経歴があるのですが、
あまり有名になることもなく、
地味な存在です。
録音が少なく、
書斎のCD棚をさがしても、
これ以外はボロディンのオペラ
「イーゴリ公」しか見つかりません。
ネットで検索してもいくつかの交響曲が
マイナー・レーベルから
出ているだけです。

一方、演奏のセントルイス交響楽団は、
アメリカで二番目に古い
オーケストラであり、
歴史を感じさせるのですが、
こちらも後発のボストン響、
シカゴ響などの陰に隠れ、いわゆる
「アメリカ5大オーケストラ」からも
漏れている始末です。
おそらく「洗練されていない」と
いうことなのでしょうが、逆に
その土臭さというか朴訥さというか、
ローカルな味わいが何ともいえません。

もしかしたら、こうした両者の特徴、
つまり奇をてらわない素朴さや
調和を重視した
平衡感覚の良さといったものが、
シューマンの交響曲に
マッチしていたのかも知れません。
シューマンの交響曲自体も、
きわめて地味な音楽です。
メンデルスゾーンのような
旋律の甘さも少なく、
かといって渋みも
ブラームスほどではなく、
ベルリオーズのような
奇天烈さとは無縁、
ブルックナーのような神々しさも
持ち合わせていません。
だからこそ、スルメのように
長く噛み続けるとじわじわと味わいが
広がってくるのです。

さらにこの録音を発売している
VOXBOXレーベルも相当に地味です。
まったく洗練されていない
ジャケット・デザイン、
粗末な紙質に
白黒印刷で文章だけのブックレット、
CDを商品として売ろうとしているのか
怪しくなるほどです。
でも、これもまた
不思議な味わいに満ちていて、
私などはこのレーベルの盤を
ヤフオクで見つけるたびに
購入してしまいます。

1810 Schumann

この録音は
「レコード芸術」の名曲名盤では
まったく取り上げられることもなく、
評論家が「いい」といっている文章を
見たこともありません。唯一、
クラシック音楽愛好家の俵孝太郎氏
(昭和の時代のニュースキャスターです。
知っていますか?)がその著書の中で
褒め称えています。
また、ネット上でも
この盤を推す方は何人もいるようです。
評論家のいうことは
あまり当てにしない方が
いいのかも知れません。

その音楽のどんな部分が
聴き手の琴線に触れてくるか、
わからない部分があるのが
クラシック音楽の魅力の一つです。
誰も推さなくても、自分が聴いて、
いいものはいいのです。
だからこそ、音盤は愉し、です。

(2021.3.13)

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