スホーンデルヴルトのベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集

まさにベートーヴェン再発見の名にふさわしい録音

ベートーヴェン・イヤーである昨年度の
最も大きな収穫である
CD17枚組の「ベートーヴェン再発見」
その中に収録されている
このスホーンデルヴルトの
ベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集こそ、
まさにベートーヴェン再発見の名に
ふさわしい録音です。
購入以来、何度も聴いてしまいました。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集
スホーンデルヴルト

ベートーヴェン:
・ピアノ協奏曲第1番ハ長調op.15
・ピアノ協奏曲第2番変ロ長調op.19
・ピアノ協奏曲第3番ハ短調op.37
・ピアノ協奏曲第6番ニ長調op.61a
・ピアノ協奏曲第4番ト長調op.58
・ピアノ協奏曲第5番
  変ホ長調op.73「皇帝」
スホーンデルヴィルト(fp)
アンサンブル・クリストフォリ
録音:2004-2009年

フォルテピアノによる
ピアノ協奏曲全集は、
レヴィン盤とインマゼール盤
持っているのですが、
それらとは伴奏のオーケストラの音が
全く異なるのです。
まるで室内楽演奏のようです。

それもそのはず、
原則「1パート1人」という編成で、
オーケストラの音を
極限まで刈り込んでいるのです。
何でもベートーヴェンが公開初演前に
パトロンのロプコヴィツ侯爵邸で
行っていた試演のときの編成を検証し、
その編成で
全曲を演奏しているとのことです。
なお、弦楽器は
ヴィオラとチェロだけをだぶらせ、
ヴァイオリン2、ヴィオラ2、
チェロ2、コントラバス1という
編成になっています。

これによって何が起きているか?
楽器一つ一つの音が明瞭となり、
音楽の姿が
はっきりと現れてきているのです。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲とは
こういう姿だったのかと
思い知らされる演奏なのです。

慣れないうちは、
音がカチャカチャした
軽いものに感じられるかも知れません。
しかし心を空っぽにして
しっかりと耳を澄ませれば、
そこに今まで聴き取れなかった旋律が
いくつも発見できるのです。
そしてそれによって、
ベートーヴェンの作品が、
それ以前の作曲家とは
まったく異質で革新的であることに
気付かされるのです。

スホーンデルヴルトの
フォルテピアノの響きも極上です。
当盤を聴いた後、
モーツァルトの2枚のピアノ協奏曲と、
ピアノソナタ全集を購入しましたが、
どれもこれも見事です。
フォルテピアノによる演奏は、
間違いなく
新しい時代に入ってきています。

ただし、好き嫌いが
はっきりと分かれる演奏だと思います。
分厚い管弦楽でゆったりとした伴奏に、
巨匠が泰然と構えて
優雅なピアノを奏でるような、
かつての「規範的な演奏」がすべてだと
感じている方にとっては、
嫌悪のあまり
CDを叩き割ってしまうのではないかと
思われます。

この演奏が、
他の演奏に取って代わると
いうものではありません。
ポリーニやブレンデルや
バレンボイムによる
フル・オーケストラの演奏を楽しみ、
レヴィンやインマゼールの
古楽器演奏を楽しみ、
その上でさらにこの
スホーンデルヴルトの演奏を楽しむのが
正しいベートーヴェンの
味わい方といえるでしょう。

(2021.4.29)

コメントを残す