グリュミオー&ハスキルのベートーヴェン

この演奏こそ、すべての出発点

昨年がベートーヴェン・イヤーと
いうこともあり、
ベートーヴェンのCDを
いくつも買いました。
そのほとんどが近年の録音です。
私はできれば新しい録音のものを
聴いてみたいという気持ちを
持っています。
しかし、過去の録音も決して
無視しているわけではありません。
時々引っ張り出して聴いているのが
この一組です。
ベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタ全集、
名盤中の名盤と言われている
グリュミオー&ハスキル盤です。

ベートーヴェン:
ヴァイオリン・ソナタ全集

vnソナタ第1番ニ長調op.12-1
vnソナタ第2番イ長調op.12-2
vnソナタ第3番変ホ長調op.12-3
vnソナタ第4番イ短調op.23
vnソナタ第5番ヘ長調op.24「春」
vnソナタ第6番イ長調op.30-1
vnソナタ第7番ハ短調op.30-2
vnソナタ第8番ト長調op.30-3
vnソナタ第9番イ長調
  op.47「クロイツェル」
vnソナタ第10番ト長調op.96

アルテュール・グリュミオー(vn)
クララ・ハスキル(p)
録音:1956年~1957年

さすがに60年以上前の録音、
しかもモノラル録音なのですが、
この時代のものとしては
極めて良好です。
音の広がりが良く、
ステレオ録音かと
勘違いしてしまうほどです。
しかもグリュミオーの
艶やかで気品あるヴァイオリンの音色と
ハスキルの押さえたピアノの
優雅な響きが特徴です。
ハスキルの他の演奏を聴く限り、
もっと奔放なピアノを展開しても
良さそうなものですが、
グリュミオーの引き立て役に回って
バランスを重視しているものと
思われます。
その結果、全10曲とも、
美しい音楽が響き渡ります。
歴史的名盤と言われているのも
わかります。

ただ、この曲のCDは今、あまたあり、
百花繚乱の気配を呈しています。
私の所有しているものだけでも、
クレーメル&アルゲリッチ盤の
火花を散らすような演奏、
ミドリ・ザイラー&インマゼール盤の
渋い響きが味わい深い古楽器演奏、
ムター&オーキス盤の
美しさ際立つ演奏、
ファウスト&メルニコフの
知的なアプローチ等々、
魅力的な演奏ばかりです。

しかし、この演奏こそ、
すべての出発点のように
思えてならないのです。
ベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタ全集の
いろいろな演奏を聴くたびに、
グリュミオー&ハスキルが示した
一つの規範を、後の演奏家たちが
いかにして越えていったかの過程を
俯瞰しているように
感じてならないのです。

新しいものが大好きですが、
その根っこに存在するものも、
大切にしていきたいものだと
感じています。

(2021.5.2)

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