イブラギモヴァのベートーヴェン

躍動感に溢れた瑞々しいベートーヴェンの姿

もうベートーヴェン
ヴァイオリン・ソナタは
買わなくてもいいだろうと思いつつ、
でもこれだけはと思い
購入してしまったのが
このイブラギモヴァ盤3枚です。
10年ほど前に出され、
話題になっていたものですが、
ようやく手に入れることができました。
聴いてみると、
やはり素晴らしい出来映えです。

「ベートーヴェン:
 ヴァイオリン・ソナタ全集」

「Violin Sonatas-1」
ベートーヴェン:
 ヴァイオリン・ソナタ
  第1番ニ長調Op.12-1
  第4番イ短調Op.23
  第8番ト長調Op.30-3
  第7番ハ短調Op.30-2

「Violin Sonatas-2」
ベートーヴェン:
 ヴァイオリン・ソナタ
  第5番ヘ長調op.24「春」
  第2番イ長調op.12-2
  第10番ト長調op.96

「Violin Sonatas-3」
ベートーヴェン:
 ヴァイオリン・ソナタ
  第9番イ長調op.47「クロイツェル」
  第3番変ホ長調op.12-3
  第6番イ長調op.30-1

 アリーナ・イブラギモヴァ(vn)
 セドリック・ティベルギアン(p)

イブラギモヴァの繊細かつ美しい
ヴァイオリンに心を奪われます。
かつての大家の演奏のような
重苦しさは微塵も感じさせず、
躍動感に溢れた
瑞々しいベートーヴェンの姿が
見えてくるような演奏です。
足取りは軽いのですが、
それでいてしっかり
地に足の付いた演奏です。
彼女のヴァイオリンは
決して雄弁ではないと思うのですが、
余分なものを付け加えないかわりに、
必要なものは
余すところなく伝えきっています。

ティベルギアンのピアノは、
逆に雄弁です。
この曲が持っている、
今まで気づかなかった魅力を、
一つ一つ丁寧に提示するかのような
演奏です。
これまでこのピアニストの録音を
聴いたことがありませんでしたが、
表現力豊かな演奏者だと感じます。

特筆すべきは、
この二人の親和力の高さでしょう。
お互いに丁々発止でやり合うような
演奏ではありません。
一方が他方に寄りかかる演奏でも
もちろんありません。
お互いに、前に出るべきは十分に出て、
支えるべきところはしっかり支え、
息の合った演奏が展開されます。

ベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタは、
「ヴァイオリンのオブリガード付き
ピアノ・ソナタ」と言われるくらい、
両者の役割が拮抗している構造です。
イブラギモヴァと
ティベルギアンのコンビは、
そうした構造を持つこの曲に、
最も適した組み合わせだったと
いうことでしょう。

以前にも書きましたが、
ベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタ全集は、
オイストラフ&オボーリン盤、
クレーメル&アルゲリッチ盤、
ムター&オーキス盤の
3つがあれば十分だろうと
(クライスラー&ルップ盤もあるが、
めったに聴いていない)、
新出盤をずっとスルーしてきました。
ところが2年ほど前、
ザイラー&インマゼール盤の
古楽器演奏で目が覚め、
グリュミオー&ハスキル盤
名手の演奏にも様々あることを知り、
無名のベロフスキ&ブッシュ盤
新しい演奏の可能性を感じ、
ファウスト&メルニコフ盤
この曲の知的アプローチを味わい、
デュメイ&ピレシュ盤
一つの完成形を
聴き取ることができました。
終わりにしようと思っていたのですが、
また買ってしまいました。
もう本当に
これで終わりにしようと思っています。

(2021.10.24)

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