クリヴィヌのベートーヴェン

CDとして素晴らしい演奏と音響

21世紀に入って、
本当に素敵な演奏が次から次へと
登場するようになったと感じます。
ベートーヴェンの交響曲全集です。
ここまで取り上げたものだけでも
アントニーニ&バーゼル室内管
ヤルヴィ&ドイツ・カンマーフィル
フリューベック・デ・ブルゴス
&デンマーク国立響

インマゼール&アニマ・エテルナ
並びます。
ここ1週間、ずっと聴いていたのがこの
クリヴィヌ&ラ・シャンブルの全集です。

「ベートーヴェン:交響曲全集」
ラ・シャンブル・フィルハーモニック
エマニュエル・クリヴィヌ(指揮)

Krivine Beethoven

CD1
ベートーヴェン:
 交響曲第1番ハ長調 op.21
 交響曲第2番ニ長調 op.36
CD2
 交響曲第3番変ホ長調 op.55「英雄」
 交響曲第4番変ロ長調 op.60
CD3
 交響曲第5番ハ短調 op.67「運命」
 交響曲第6番ヘ長調 op.68「田園」
CD4
 交響曲第7番イ長調 op.92
 交響曲第8番ヘ長調 op.93
CD5
 交響曲第9番ニ短調 op.125「合唱」

ジネアド・ミュレーン(S)
キャロリン・マズア(A)
ドミニク・ヴォルティッヒ(T)
コンスタンティン・ヴォルフ(Bs)
シャンブル・レ・エレメンツ合唱団
録音時期:2009年~2010年

演奏団体ラ・シャンブルは
カタカナで書くとわかりにくいのですが
La Chambre Philharmonique、
つまり室内フィルハーモニーと
いうことであり、
室内楽の延長としての管弦楽演奏が
意識されているのでしょう。
一つ一つの楽器が際だち、
テクスチュアの明晰さ、
ハーモニーの純粋さにおいて、
際だった特質を見せています。
しかも古楽器演奏であり、
颯爽としていて軽快です。

指揮者エマニュエル・クリヴィヌは、
ベテランの域に達している
指揮者であり、
近年特にいい仕事をしていると
感じます。
ラヴェルの管弦楽曲集
リムスキー=コルサコフの
シェヘラザードが
素敵な演奏だったので、5年ほど前、
期待して本盤を購入しました。

期待を裏切らない、
いや、期待を大きく上回る演奏です。
奇抜なことは
一切行っていないのですが、
そこここから新鮮な響きが
聞こえてきます。
生命力溢れる演奏と
いえばいいのでしょうか、
聞き慣れたはずの曲から、
新たな息吹を感じさせられます。
おそらく入念な研究の
結果なのでしょう。

クリヴィヌが意図的に
特色を打ち出している部分としては、
オリジナル楽器の
コントラファゴットの導入でしょう。
このコントラファゴットが
加わったことにより、
管楽器に深みが増し、
低音補強によりリズム感が
より明晰になった感じがあります。

欲を言えば、第9交響曲の録音が
もう少しどうにかならなかったものかと
思われることです。
響きが今ひとつであり、
クリアさに欠けています。
これは演奏ではなく
録音の問題だと感じます。
演奏時期がわずかに早く、
この録音のみ先行発売されていた
ことから考えると、
他の8曲は録音方法や編集方法を
変更したのではないかと考えられます。
第9交響曲は、演奏も録音も
難しい音楽だとつくづく思います。

さてそこから、
CDとは何かということを
考えさせられます。
他の8曲は
各楽器のバランスが良すぎるので、
おそらくは統一感が出るように
弱い楽器の音が
補強されているはずです。
コンサートの演奏を
そのまま再現するのではなく、
リビングで聴いたときに
最上の音響を聴かせる。
それがCDの在り方ではないかと
思うのです(それを邪道と考える方も
多いと思うのですが)。

CDとして素晴らしい演奏と音響を伝える
クリヴィヌ&ラ・シャンブルの
ベートーヴェン交響曲全集、
未聴の方にぜひお薦めしたい一組です。

(2021.11.7)

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