イブラギモヴァのメンデルスゾーン

本盤は違います。香気も色気もありません。

メンデルスゾーン
ヴァイオリン協奏曲。
天下の名曲です。
私はこのCDと出会う前までは、
この曲に一つのイメージを
持っていました。
そしてそのイメージに沿って
CDを探し求めてきました。
「イブラギモヴァがすごい」という
話を聞き、
本盤を購入(3年前)したのですが、
そのおかげで、この曲に対する
考え方が一新されました。

「メンデルスゾーン:
  ヴァイオリン協奏曲」
アリーナ・イブラギモヴァ

Alina Ibragimova

メンデルスゾーン:
 ヴァイオリン協奏曲ホ短調Op.64
 序曲「フィンガルの洞窟」Op.26
 ヴァイオリン協奏曲ニ短調(1822)

アリーナ・イブラギモヴァ(vn)
エイジ・オブ・インライトゥメント管
ヴラディミール・ユロフスキー(指揮)
録音:2011年

この盤に出会う前までは、
私はこの曲に「女性の涙の美しさ」を
求めていたような気がします。
もの悲しくも美しい旋律に、
女性の落とす涙の粒のきらめきを
感じてしまっていたのです。
したがって、ついついジャケット写真で
女性ヴァイオリニストが
美しく写っているCDをもっぱら購入し、
その音楽から立ち昇る「女性の香気」
(音楽にそのようなものが
あるはずがないのだが)に
酔っていました。

本盤は違います。
香気も色気もありません。
ジャケットからしてそうです。
メンデルスゾーンの
ヴァイオリン協奏曲らしからぬ
ジャケットです。
色彩のないモノトーン。
イブラギモヴァの不機嫌な表情。
演奏もその通りです。
イブラギモヴァのヴァイオリンは
しおらしく涙など流していません。
隙あれば聴き手に切りつけてくるような
鋭さがあります。
研ぎ澄まされたような音色が、
次から次へと襲ってくるような
怖さがあります。
それでいて表情は豊かで、
決して能面のような
無機質な演奏ではありません。

ピリオドアプローチの演奏であり、
低めのピッチで渋めの音色は、
メンデルスゾーンのイメージとは
相反するものかもしれません。
ほとんど古典派の響きです。
しかしそれでいながら、
イブラギモヴァのヴァイオリンは、
曲の構造を明確に提示し、
かつ表現力は豊かです。
これまでなんとなく聞いていた部分が、
深い意味を持って迫ってくるかのような
迫力を感じます。

指揮のユロフスキーと演奏の
エイジ・オブ・インライトゥメント管の
サポートも万全です。
イブラギモヴァのヴァイオリンと
一体化したような演奏を聴かせます。

メンデルスゾーン若き日の作品・
ニ短調の協奏曲も素敵です。
これがはじめてではありませんが、
この曲の良さを
初めて感じることのできた演奏です。

10年ほど前に
ムターの新録音盤を購入し、
その華麗さ・ゴージャスさに
感銘を受け、
この曲はこれでもう決まりだ、
もう新しい盤はいらないだろうと、
勝手に思い込んでいました。
当盤は、その4年後に登場したものです。
最近聴いたファウストの盤は
さらに画期的な演奏でした。
まだまだ新しい演奏は
切り拓かれているのです。
音楽の楽しみは尽きません。

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(2021.12.19)

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