タッシェン・フィルハーモニーのベートーヴェン

「交響曲」というよりも「人数の多い室内楽」

以前から気になっていた
ベートーヴェン交響曲全集の
変わり種を、
ようやく聴くことができました。
「史上最少のオーケストラ」と
呼ばれている
タッシェン・フィルハーモニーの
ベートーヴェン交響曲全集です。
ジャケットに
「POKET PHILHARMONIC」と
書かれてあるように、
12名から20名のメンバーによる
アンサンブルです。

ベートーヴェン:交響曲全集

Stangel Beethoven

ベートーヴェン:
Disc1
 交響曲第1番ハ長調 Op.21
 交響曲第2番ニ長調 Op.36

Disc2
 交響曲第3番変ホ長調 Op.55「英雄」
Disc3
 交響曲第4番変ロ長調 Op.60
 交響曲第5番ハ短調 Op.67「運命」

Disc4
 交響曲第6番ヘ長調 Op.68「田園」
Disc5
 交響曲第7番イ長調 Op.92
 交響曲第8番ヘ長調 Op.93

Disc6
 交響曲第9番ニ短調 Op.125「合唱」
アンドレア・ローレン・ブラウン(S)
ウルリケ・マロッタ(Ms)
マルクス・シェーファー(T)
ベルンハルト・シュプリングラー(Bs)
Vokalwerk Nurnberg(合唱)
タッシェン・フィルハーモニー
ペーター・シュタンゲル(指揮)
録音:2012-2017年

フルトヴェングラートスカニーニ
ベームクレンペラーといった
往年の巨匠たちのベートーヴェン演奏を
信奉している方が聴くと、
「こんなものは
ベートーヴェンではない」といって
怒りだし、CDを窓から
放り投げてしまうかもしれません。
本盤は他のベートーヴェン演奏
と同列で考えてはいけないのです。
「CHAMBER SYMPHONIC VERSION」
との記載があるように、
各パート1名という制約下での
指揮者シュタンゲルの
アレンジが施されていますので、
「交響曲」というよりも
「人数の多い室内楽」と考えるべきです。

これがなかなかいけます。
最小限の人数で演奏することによって、
ベートーヴェンの創り上げた
音楽の骨格構造が、
レントゲン写真で見るように
浮かび上がってきているかのようです。
もちろん各楽器間のバランスは
決してよくありません(録音技術で
カバーしているものと思われますが)。
それでも楽器の輪郭が明確である分、
新しい発見に満ちているのです。

第1番・第2番から素敵です。
初期の作品は少人数の編成でも
違和感なく聴こえてきます。
アントニーニやヤルヴィなど
近年この曲の
革新的な演奏が登場している分、
聴き比べが愉しめそうです。

そして第3番は聴き応えがあります。
贅肉をそぎ落とせばこんな精悍な姿が
見えてくるのかと驚きます。
もちろん並み居る第3番の名曲群と
同じようには論じられませんが、
録音も秀逸であり、
何度も聴きたいと思わせる演奏です。

第4番・第5番、そして第7番・第8番も
愉しめます。
特に第4番・第7番は
この曲特有のリズム感が生かされ、
味わい深いものになっています。

第6番はもともと管楽器の
役割の少ない曲であり、
管と弦のバランスとしては
最も良好なものとなっています。
ただ、この曲特有の弦楽器の美しさは
(ヴァイオリンのソロ演奏であるため)
当然期待できません。
それを理解して聴く分には、
刺激に満ちた演奏を愉しめます。

第9番のみ弦楽器が
増員されているようです。
他の8曲より
幾分なめらかに聴こえます。
私は第9交響曲では第3楽章に
魅了されています。
厚い弦の演奏も魅力的ですが、
この最小限の弦による演奏も
素晴らしいと感じます。
さらに第4楽章では、
声を張り上げる必要のない分、
声楽陣が余裕を持って
表現できているように感じます。

これで30数組目の
ベートーヴェン交響曲全集です。
この交響曲群から
まだこれだけの新しい音楽が
見いだせることに驚きです。
こうした新しい試みが登場するから
クラシック音楽は飽きがこないのです。
この全集をこれから十分に
愉しみたいと思います。

※第7番については
 YouTubeのタッシェン・フィル
 公式チャンネルで公開されています。

(2022.3.27)

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