へブラー&グリュミオーの「ます」

深みもあるし味わいも十分なのですが

シューベルトの「ます」が好きで、
いろいろな盤を集めてしまいました。
どちらかというと
近年録音されたものが多いのですが、
最近このへブラー&グリュミオー盤を
買いました。
ピアノとヴァイオリン、
それぞれの名手の奏でる「ます」は
どんな味がするのかなと、
興味津々で聴いてみました。

イングリット・へブラー
シューベルト作品集

シューベルト:
 ピアノ五重奏曲イ長調D.667「ます」

イングリット・へブラー(p)
アルテュール・グリュミオー(vn)
ゲオルク・ヤンツェル(va)
エヴァ・ツァコ(vc)
ジャック・カツォラン(cb)
 楽興の時D.780
 16のドイツ舞曲D.783

イングリット・へブラー(p)

へブラーとグリュミオーですので、
正統派の美しい音楽が
展開されていきます。
刺激的なことなど、
何一つ行われていません。
へブラーの端正なピアノは、
聴く者の心を確実に癒やしてくれます。
それでいてシューベルトの「歌」の魅力を
しっかりと引き出しています。
そしてグリュミオーの大家然とした
堂々たるヴァイオリンも
素晴らしいと思います。
聴くものの背筋を伸ばさせるような
圧倒的な説得力に満ちています。

非の打ち所のなさそうな
演奏なのですが、
こうして何度も聴いていくと、
物足りなさも感じてしまいます。
完璧な演奏なのですが、なぜ?

それはおそらく「鱒」の躍動感
なのではないかと思われます。
演奏家から受ける
先入観からかもしれませんが、
このメンバーによる「鱒」は
行儀が良すぎるように思えるのです。

かつてこの曲の私的ベスト3を
書きましたが、
ヤン・フォーグラーと
その仲間たちによる演奏は、
ピチピチと水面から
その身を跳ねさせるような躍動感に
満ちた表現を繰り広げています。
田部京子とカルミナ四重奏団は、
音の鮮度の良さから
躍動感を表出させています。
田部のピアノは
仄かな色香さえ感じさせます。
ルービンがフォルテ・ピアノを
弾いた盤は、枯れた色彩の中にも
力強い鱒の動きを感じさせます。

教科書的演奏であり、
深みもあるし味わいも十分なのですが、
「面白さ」という点では
最近録音された盤に、
一歩譲るのではないかと思うのです。

そうはいっても本盤の演奏の価値が
いささかでも
減ずるものではありません。
かつてこうした演奏が
スタンダードであったことを
確認する意味でも、本盤の価値は
大きなものがあるはずです。
未聴の方はぜひお聴きください。

(2022.4.17)

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