インマゼールのベートーヴェン交響曲全集

ピリオド楽器によるベートーヴェン演奏の一つの到着点

ベートーヴェンの交響曲全集も
知らぬ間に40組以上
所有するようになり、
どれを聴こうか迷うようになりました。
ここ一週間で聴いたのが
このインマゼールによる演奏です。
ピリオド楽器による演奏ももはや
珍しいものではなくなりましたが、
2005~2007年に録音された本演奏は、
今後も新鮮さを
失わないものと思われます。

ベートーヴェン:交響曲全集・序曲集

Disc1:
ベートーヴェン:
 「プロメテウスの創造物」序曲Op.43
 交響曲第1番Op.21
 交響曲第2番Op.36
Disc2:
 交響曲第3番Op.55「英雄」
 「コリオラン」序曲Op.62
 「エグモント」Op.84 序曲
 「アテネの廃墟」Op.113
  序曲
  トルコ行進曲
Disc3:
 交響曲第5番Op.67
 交響曲第4番Op.60
Disc4:
 交響曲第6番Op.68「田園」
 交響曲第8番Op.93
Disc5:
 交響曲第7番Op.92
 「献堂式」序曲Op.124
Disc6:
 交響曲第9番Op.125

アンナ・クリスティーナ・カーポラ(S)
マリアネ・ベアーテ・シェラン(A)
マルクス・シェーファー(T)
トーマス・バウアー(B)
アニマ・エテルナ合唱団
アニマ・エテルナ
ジョス・ヴァン・インマゼール(指揮)
録音:2005~2007年

資料によると、インマゼール
ベートーヴェンによる
メトロノーム記号表示に
したがっているとのこと。
いつも問題となるのは
ベートーヴェン自身によって書かれた
メトロノーム記号の信憑性です。
あまりにも速すぎるのではないか?と
言われ続けてきたのですが、
本演奏を聴く限り、
速「過ぎる」とは感じません。
キビキビとした清冽な演奏として
耳に届きます。
モダン楽器では速「過ぎる」のが、
ピリオド楽器では十分演奏可能であり、
かつ豊かな表現に結びつくことを、
インマゼールの指揮は実証しています。
不自然さはみじんも感じられません。

Disc1では、交響曲第1番が
演奏されるものと思い込んで
プレーヤーを始動させると、
いきなりプロメテウス序曲が現れ、
一瞬驚かされます。
その後の第1番の清廉な演奏に
目が覚めるような思いがします。
続く第2番が聴き応えがあります。
第2番は3番以降の名曲群の影に
隠れがちですが、初演当時
「奇を衒いすぎている」と
酷評されたとおり、
ある意味様式美を逸脱したような
構造をしています。
その斬新な姿が実に見事に表現された
演奏だと感じます。

Disc2は第3番です。
決して重苦しくはなりません。
荘厳さを持ちながらも躍動感があり、
前に進んでいく演奏です。
フルトヴェングラーやバーンスタインの
第3番を愛聴している方には
お薦めできない演奏です
(古楽器演奏全般にいえるのですが)。
余白に収められている
4曲の管弦楽曲がチャーミングで、
ついつい繰り返して聴いてしまいます。

Disc3は第5番と第4番。
第5番が颯爽としていて、
この全集中最も聴き応えのある
演奏ではないかと思います。
第1楽章から駆け抜けるような演奏は、
爽快感に満ちています。
第4番もいい出来映えですが、
もう少し躍動感があっても
いいのではないかと思われます
(好みの問題なのですが)。

Disc4は第6番と第8番です。
第6番も快速であり、
好き嫌いが分かれるかと思われます。
私はゆったりした田園も好きですが、
テンポのよい田園も愛しています。
特にこのインマゼール盤は、
嵐の場面などの表現が見事であり、
情景が目に浮かぶようです。
第8番も曲の特徴が
よく現れた演奏だと感じます。

Disc5は第7番と序曲1曲。
スケール感の大きな第7番であり、
勢いの感じられる演奏です。
第2楽章の美しさも特筆されます。

Disc6は第9番。
第1楽章第2楽章の
攻撃的なアプローチは
聴き手にほどよい緊張感を
与えてくれます。
第3楽章は「美しさ」の点で
やや物足りなさを感じる
(私は第9番の命は
第3楽章だと思っている)のですが、
大きな不満はありません。
第4楽章もよどみなく進行します。
合唱のパートが薄く(各パート6人)、
そのため合唱は
やや奥に引っ込んだ印象を受けます。
一方、独唱部は
オペラ的な表現となっていて、
あくまでもソリストの「歌」を前面に
押し出そうという意図のようです。
聴感上のバランスとしてはこの形が
最適ではないかと思われますが、
ここも好悪が分かれそうです。

ピリオド楽器による演奏も、
学究的なホグウッド盤、
強い革新性のガーディナー盤を経て、
とうとうここまで来たかという
思いです。
現代は既にモダン・ピリオドの
区別を抜きにして、
その折衷型の演奏が
新しい刺激をもたらしています。
だから、
ついついまた買ってしまうのです。
ベートーヴェン交響曲全集を。
さて、次は何を買おうかな?
いけない、いけない。

(2022.6.19)

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