18世紀の雅なフルート・ソナタ集

フリードリヒ大王の宮廷音楽

フルートが主役の音楽は
決して多くはありません。
古学の宝石箱のような
「vivarte 60CD collection」においても、
第2集60枚の中で、
フルートがメインの録音は、
本盤以外には
「18世紀ドイツのフルート協奏曲」
一枚あるだけです。
そちらはタイトルが示すとおり
フルート協奏曲集ですが、
本盤はフルート・ソナタ集と
なっています。

BOX-Ⅱ Disc48
フリードリヒ大王の宮廷音楽

ベンダ:ソナタ ホ短調
グラウン:ソナタ ハ長調
キルンベルガー:ソナタ ト長調
フリードリヒ大王:ソナタ ホ短調
グラウン:ソナタ ト長調
クヴァンツ:ソナタ 変ロ長調
ミューテル:ソナタ ニ長調

バルトルド・クイケン(fl)
ヴィーラント・クイケン(vc)
ボブ・ファン・アスペレン(cemb)
録音:1995年

ジャケット左端で
フルートを吹いているのが
フリードリヒ大王です。
フルートの名手で大の音楽好きだった
フリードリヒ大王に捧げられた音楽を
集めたものなのです。
作曲家はすべて、
大王に召し抱えられていた
宮廷音楽家たちです。

1曲目は1709年生まれの
ヴァイオリン奏者兼作曲家・
フランツ・ベンダのソナタです。
素朴でしみじみとした旋律が
魅力的です。

2曲目の
ヨハン・ゴットリープ・グラウン
(1703年生まれ)もまた、
ヴァイオリン奏者兼作曲家です。
こちらは対照的に明るく伸びやかな
音楽が展開していきます。
第2楽章など、
宮廷で奏でられる音楽というよりは、
野原でピクニックをするのに
適した音楽に感じられるほどです。

3曲目の
ヨハン・フィリップ・キルンベルガーは
1721年生まれで
大バッハの弟子だった作曲家です。
第1楽章は重みのある旋律ですが、
第2楽章は明るい雰囲気で、
フルートが小気味よく躍動します。

4曲目でフリードリヒ大王の登場です。
落ち着いた中にも味わいのある曲調が
耳に心地よく響きます。
フルート・ソナタだけでも
121曲を作曲したといわれている
フリードリヒ大王。
政治家の余技などと片付けられない
魅力を放っています。

5曲目のカール・ハインリヒ・グラウン
(1704年生まれ)は、
オペラの作曲家として有名でした。
オペラティックともいえる
躍動感のある旋律が
聴きどころでしょう。

6曲目のヨハン・ヨアヒム・クヴァンツは
1697年生まれのフルート奏者兼作曲家。
実はフリードリヒ大王をのぞくと、
このクヴァンツだけが
フルート奏者であり、
フリードリヒ大王の師なのです。
このソナタが最も宮廷にふさわしい
雅な響きがあります。

最後の
ヨハン・ゴットフリート・ミューテルは
1728年生まれの
チェンバロ奏者兼作曲家です。
ゆったりとした旋律に
優雅さを感じさせます。

これらの素敵な音楽を、
名手バルトルド・クイケンの
フラウト・トラヴェルソが
さらに魅力あるものに仕上げています。
素朴な中にも優雅さを漂わせ、
18世紀の宮廷の雰囲気を、
生き生きと表現しています。
チェロのヴィーラント・クイケン、
チェンバロの
ボブ・ファン・アスペレンも、
主役のフルートが引き立つような
演奏に徹していて、
終始バランスのとれた
アンサンブルとなっています。
それをクリアに捉えた録音も秀逸です。

さて、「音楽好きの王様」となると、
温厚で平和そうな人物像が
イメージされます。
哲学にも通じていた大王は即位後、
拷問の廃止、貧民への種籾貸与、
宗教寛容令、オペラ劇場の建設、
検閲の廃止等、
自由を重んじる政策を次々に打ち出し、
まさに民衆のための施政者として
君臨します。
その一方で非常に好戦家であり、
軍備を増強するとともに、
ハプスブルク家の領土を奪い、
最終的には国土を先代父帝の
五倍に増大させるに至ります。
戦争の是非はともかく、
辣腕で力のある政治家であり、
民衆の大きな支持を得ていたことは
確かです。

歴史は詳しくないのですが、
歴史をひもときながら音楽を聴くのも
たまにはいいものです。
音盤からは、音だけではなく、
「時代の空気」もまた
伝わってくるのですから。
やはり、音盤は愉し、です。

(2022.7.23)

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