ラルキブデッリのブラームス弦楽六重奏曲

せめぎ合う「若さ」と「渋さ」

古楽器演奏の名盤を集めた
「vivarte 60CD collection」には、
ルネサンスやバロックだけでなく、
古典派ロマン派の作品も
収められています。
最も新しい時代の作曲家が
ブラームスであり、本盤は2曲の
弦楽六重奏曲が収録されています。

BOXⅡ Disc7
ブラームス:弦楽六重奏曲集

ブラームス:
 弦楽六重奏曲第1番変ロ長調 Op.18
 弦楽六重奏曲第2番ト長調 Op.36

ラルキブデッリ
 アンナー・ビルスマ(vc)
 ヴェラ・ベス(vn)
 ユルゲン・クスマウル(va)
 フース・ジューケンドゥルップ(vn)
 ケネス・スロウィック(vc)
 マリリン・マクドナルド(vn)
録音:1995年

交響曲第1番が
ブラームス43歳(1876年)の
作品であったのに対し、
この弦楽六重奏曲は
第1番が27歳(1860年)、
第2番が32歳(1865年)と、
比較的若い段階で創作された曲です。
ベートーヴェンをはじめとする古典派に
同種の構成の曲が存在せず、
プレッシャーを感じることなく
書き上げることができたものと
いわれています。2曲とも、
若書きとしての躍動感と甘美さ、
そしてブラームスらしい渋さと重さが、
せめぎ合っているような
印象を受けます。

それが最も現れているのは
第1番の第1楽章です。
若々しさが見られる一方で、
枯れた味わいもまた感じさせます。
まるで青年が遙か昔を
懐古しているようなイメージです。
27歳のブラームスは、かなり
「じじくさい」青年だったのでしょうか。
しかし第2楽章は一転して
名旋律が繰り返し変奏される
わかりやすい曲となっています。
その余韻に浸りながら第3楽章、
第4楽章と聴き進むことになります。

第2番もまた、
曲全体で「せめぎ合い」が見られます。
第1楽章、第2楽章のやや甘美で
ロマンティックなイメージは、
第3楽章には引き継がれません。
好天の空に雲がかかり、
心の中に不安がよぎるような印象です。
しかしこの第3楽章こそが
変奏曲の名手としての
ブラームスらしさが
最もよく現れている部分でもあります。
そして第4楽章は華やいだ雰囲気で
幕を閉じます。

ビルスマ率いるラルキブデッリは、
名手ぞろいで見事なアンサンブルを
聴かせてくれます。
モダン楽器で聴くブラームスも
素敵なのですが、
ピリオド楽器による演奏も
格別な味わいがあります。
楽器のくすんだ音色が、
ブラームスの枯れた渋みの部分を
引き立てています。
聴き慣れてくると、こちらの方が
ブラームスの意図した響きではないかと
思えてきます。

ラルキブデッリは、あたかも2曲を
ひとつながりの作品であるかのように
捉えているかのようです。
第2番第4楽章に向けてテンションが
次第に上がっていきます。
「若さ」と「渋さ」のせめぎ合いも
見事に表現されていて、
曲の起伏がはっきりと
描き出されているのです。
そのため2曲通して聴くと、まるで
一つの映画を見終わったかのような
満足感に浸ることができるのです。

さて、ブラームスの弦楽六重奏曲は、
目立った新録音が登場しなかった時期が
続きましたが、ここ数年、
注目の演奏が現れています。
エラートから出された
カプソン兄弟を中心とした6人の録音、

B Recordsからの
ピエール・フシュヌレを中心とした
若いメンバーによる録音、

アルファからのペルチャ四重奏団盤と、

俄然活気を帯びてきました。
まだすべてを聴いていないのですが、
いずれ手を伸ばしていきたいと
思います。
やはり、音盤は愉し、です。

(2022.7.30)

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