リナ・トゥール・ボネの参加している謎のアルバム

分かってくると、なんとも愛おしい

Amazonリナ・トゥール・ボネのCDを
検索していたら引っ掛かった
謎のアルバム(2021年発売)。
私はHMVのサイトを
毎日2回はチェックしているのですが、
このアルバムは
見たこともありませんでした。
しかもAmazon得意の
「最後の一枚価格(?)」でなんと¥305!
すぐ買ってしまいました。

Antonio Jose「Incompleto」
songs & Violin Works

アントニオ・ホセ:
 La murga
 Vals
 Mazurca
 Apasionadamente
 Rondó EACEA
 Canción del alba
 Sevillana
 Balada
 La mañana
 Villancico
 Ave Maria
 Danza de las Bayaderas
 Romanza del Rey
 Dice que no nos queremos
  porque no nos visitamos
 Juan se llama mi amante,
  yo Catalina
 Dame las llaves
 El molinero
 Todo lo cría la tierra

Adriana Vinuela(S)
Elisa Rapado(P)
Lina Tur Bonet(Vn)
録音:2019年

演奏者はジャケットに
クレジットされているとおり、
ソプラノのヴィニュエラ、
ピアノのラパド、
ヴァイオリンのリナの、
3人の若い女性による演奏です。
サブタイトルにあるように、
歌曲とヴァイオリン曲の
作品集であることは分かります。
演奏時間1分未満の作品も3曲あるので、
「小品集」といったところでしょうか。

一度聴いただけでは、このアルバムの
本質が全く理解できませんでした。
二十世紀の作曲家でありながら
分かりやすい旋律、
どことなく南国風のメロディ、
ピアノ伴奏による歌曲、
ピアノ独奏曲、
ピアノ伴奏付きヴァイオリン曲が
めまぐるしく現れる
コンセプト不明の作品構成、
それでありながらヴァイオリン曲は
たった1曲(4曲目)、
全18曲で全45分という
近年のCDにしては異様な「盛りの悪さ」、
そしてたった一曲のために
なぜリナほどの
バロック系のヴァイオリニストが
現代曲に参加しているのか、
分からないことだらけの
「謎のアルバム」でした。

YouTubeでも
一部が公開されています。

調べてみることは大切です。
アントニオ・ホセなる作曲家は、
1902年生まれのスペインの作曲家
(兼教育者・指揮者)でした。
「イエズス会系の学校で
音楽教師を務めるかたわら、
ブルゴス市の合唱指揮者として
活動した」という記述を見つけました。
才能溢れる作曲家であり、
ラヴェルによって「来るべき時代の
スペイン楽壇を担う」逸材と
絶賛されたほどの人物だったようです。
しかし、
スペイン市民戦争の起きた1936年、
スペインのファシズム政党であった
ファランヘ党員により、
拷問の末に虐殺されていたのでした。
将来を嘱望されていながらの、
なんとも残念な早すぎる死です。
CDを検索してみると、
ギター曲を中心に、わずかの合唱曲と
管弦楽曲を遺しています。

おそらく、作曲家・ホセを偲んで
創られたアルバムなのでしょう。
ヴィニュエラ、ラパド、リナの
演奏者もそれぞれスペイン出身です。
若くして非業の死を遂げた
自国の作曲家の作品を、
形として世に送り出したいと
考えたのかも知れません。
ジャケットにも意味がありそうです。
セピア色の写真は
雨の歩道を歩く作曲者です。
くすんだカラーで合成されているのは
ヴィニュエラとラパドの二人です。
ホセと同じ空気を吸いたかったという
思いなのでしょうか。

ソプラノのヴィニュエラの情報は
こちらからどうぞ。

また、ピアノのラパドの情報は
こちらからどうぞ。

いろいろなことが分かってくると、
なんとも愛おしいアルバムに
思えてくるから不思議です。
ホセの作品を
もっと聴いてみたいと思います。
やはり、音盤は愉し、です。

〔リナ・トゥール・ボネのCD〕
スペイン出身の熱いエネルギーを持った
リナのCDは、すべてが素敵です。
強くお薦めします。

今日取り上げたアルバムでは
1曲だけの収録ですが、
やはり聴き逃せない一曲です。

(2022.9.4)

【ホセ作品の収録されているCD】

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんなCDはいかがですか】

コメントを残す