ラザール・ベルマンの超絶技巧練習曲

恐るべきピアニスト、ラザール・ベルマン

20年ほど前に購入し、
数回聴いたまま、忘れていました。
棚の奥に埋もれていた盤を取りだし、
聴いてみましたが、衝撃的でした。
こんな素晴らしい盤を
20年間も放置していたなんて。
ラザール・ベルマン
「リスト・超絶技巧練習曲」です。

リスト:
 超絶技巧練習曲(全12曲)
  第1番ハ長調「前奏曲」
  第2番イ短調
  第3番ヘ長調「風景」
  第4番ニ短調「マゼッパ」
  第5番変ロ長調「鬼火」
  第6番ト短調「幻影」
  第7番変ホ長調「エロイカ」
  第8番ハ短調「狩り」
  第9番変イ長調「回想」
  第10番ヘ短調
  第11番変ニ長調「夕べの調べ」
  第12番変ロ短調「雪かき」

ラザール・ベルマン(p)
録音:1963年

とにかく凄まじい演奏です。
1曲目「前奏曲」の冒頭の一音から
圧倒されます。
力強い打鍵による鮮烈な音の塊が、
スピーカーから弾け飛ぶように
鳴り響きます。
聴き手は身構えざるを得ません。
生半可な姿勢で聴くことなど
許されないような緊張感が漲ります。
それは2曲目・イ短調まで継続します。

3曲目「風景」で、
つかの間の静寂が訪れます。
聴き手を優しく懐柔するような
美しいメロディが
空間を満たしていきます。
しかしそれも「つかの間」に終わり、
本盤の頂点の一つ、
4曲目「マゼッパ」へと突入し、
再び聴き手の脳髄に
衝撃を打ち込んでいきます。

5曲目「鬼火」では、さらに一転し、
繊細な音が紡がれていきます。
ガラス細工を創り上げるような、
別の種類の緊張感を、
聴き手は要求されるのです。
これを本当に
人間の指が奏でているのかと、
思わず感嘆してしまいます。

6曲目「幻影」では、
「静」から「動」への移り変わりにより、
聴き手の高揚感が上がっていきます。
その上での7曲目「エロイカ」。
ベルマンは一音一音が
意味を持っているかのように、
説得力ある演奏を繰り広げていきます。
そして本盤の二つ目の頂点、
8曲目「狩り」へと移行します。
ここでも強烈なタッチと
スピード感溢れるフレーズが
展開していきます。
打鍵のキレの良さに
魅せられてしまいます。

9曲目「回想」で
再び緊張感がほぐされます。
そして10曲目・ヘ短調は
再びベルマンの
まさしく「超絶技巧」が炸裂します。
11曲目「夕べの調べ」は、
その表題のように、
眼前に美しい夕日が
照り映えているような
感覚に包まれます。
豪華絢爛の「夕べの調べ」終末を
引き継いでの12曲目「雪かき」で、
興奮を維持したまま、
全12曲の「超絶技巧練習曲」は
幕を閉じます。

もはや「練習曲」という括りでは
語ることのできない演奏です。
ベルマンによる「動」と「静」の
劇的な繰り返しが、
1時間にわたるこの曲の流れに
強烈な起伏を創り上げています。
そのため、まるで筋書きを持って
聴き手に語りかけてくるかのようです。
ベルマンは作曲者・リストの意図を
完璧に汲み上げ、
それを最大限に強調し、
提示しています。
したがって本盤を聴き通すと、
映画一本分観終えた以上の
充足感を感じます。
ラザール・ベルマン。
他に並ぶもののない卓越した技巧と、
聴き手を十分に納得させる
豊かな表現力を兼ね備えた、
恐るべきピアニストです。

ただし、疲れます。
緊張感を強いられる分、
聴き手もエネルギーを
消費させられるのです。
だから愛聴盤になることなく、
CD棚の隅へと
追いやられていたのでしょう。
本盤を棚の目立つところに
置き換えました。
これから折に触れて
聴いていきたいと思います。
やはり、音盤は愉し、です。

〔ラザール・ベルマンについて〕
ラザール・ベルマンは1930年生まれの
ロシア人ピアニストです(2005年没)。
世界に比肩するもののないほどの
実力を持ちながら、ソ連当局に
気に入られない理由があったのか、
演奏活動が厳しく制限され、
その名前は一部の愛好家のみが
知るだけでした。
1975年にアメリカでのデビューを
果たし、一躍有名になります。

〔ベルマンの録音活動〕
ドイツ・グラモフォンやCBSといった
大手レーベルから
引く手あまたの存在になるのですが、
残した録音は決して多くありません。
両レーベルからBOXが出ていましたが、
瞬く間に廃盤となりました
(ソニーのBOXを私は持っています)。

〔ベルマンのリスト「巡礼の年」〕
数年前、村上春樹が著書
「色彩を持たない多崎つくると、
彼の巡礼の年」の中で、
ベルマンの演奏したリスト「巡礼の年」を
取り上げたため、
日本で瞬間的な売り上げを
記録したということがありました。

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ユニバーサル ミュージック

(2022.9.18)

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