アリス=紗良・オットのリスト超絶技巧

アリスの衝撃デビュー盤

アリス=紗良・オット
CDデビューの衝撃から、
もう10年以上もたっていたのかと、
時間の流れの速さに驚きます。
日本人ぽい顔立ちの美少女が
わずか19歳で
天下のドイツ・グラモフォンと契約、
そのデビュー録音に選んだのが
リストの超絶技巧。
聴いてさらに衝撃。
超絶技巧を難なく
弾きこなしていたのですから。

アリス=紗良・オット
リスト:超絶技巧練習曲集

リスト:
 超絶技巧練習曲(全12曲)
  第1番ハ長調「前奏曲」
  第2番イ短調
  第3番ヘ長調「風景」
  第4番ニ短調「マゼッパ」
  第5番変ロ長調「鬼火」
  第6番ト短調「幻影」
  第7番変ホ長調「英雄」
  第8番ハ短調「狩り」
  第9番変イ長調「回想」
  第10番ヘ短調
  第11番変ニ長調「夕べの調べ」
  第12番変ロ短調「雪あらし」

アリス=紗良・オット(p)
録音:2008年

リストの超絶技巧練習曲は
やっかいな曲で、その名の通り
超絶技巧を必要とする一方、
その名に反して練習曲どころではない
演奏会用の堂々とした曲なのです。
つまり、超絶技巧の誇示に終わり、
肝腎の表現がおざなりになってしまう
演奏が多いのです。
しかしアリスの録音は違います。
十分に表現され尽くしているのです。

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ユニバーサル ミュージック
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第1番、第2番の、
エネルギーが迸るような演奏から
いきなり斬り込んできます。
快速のテンポでありながら
表現が乱れることなく突き進んでいく
爽快感を感じます。
聴きどころは第4番でしょうか。
ダイナミックな演奏でありながらも
表情豊かな演奏となっています。

そして第9番が秀逸です。
長大な曲であるにもかかわらず、
一瞬の弛緩もなく、
叙情的な旋律を紡ぎ出しています。
指の隙間から真珠が零れ落ちるような
美しいピアノの音の連続に、
聴く度ごとに魅了されてしまいます。
この一曲を聴くためだけに、この盤を
プレーヤーに置くことがあるくらい、
私はこの曲の
この演奏の虜になっています。

11番、12番での、
情景の描き方も美事です。まさに
夕映えが眼前に広がるような11番、
寂寥感の中から
光が差し込むような12番に、
心を揺り動かされます。

全曲を聴き終えたとき、このアリスは
「力強さ」よりも「しなやかな表現力」を
重視しているピアニストだと
感じました。
ところがその後、偶然つけたTV
(確かNHKのクラシック番組、
グリーグのピアノ協奏曲だったと
記憶している)映像を見て
さらにびっくり。
なんと裸足で登場、裸足で演奏。
その力強いタッチ!
「柔」の人ではなく
「剛」の人だったのか!

10年前、リリースされたばかりの
本盤を購入したのは、
期待値の大きさよりも、
実はその美貌に惹かれての
ジャケ買いでした。
「柔」も「剛」も兼ね備え、
さらに「美」まで持ち合わせた
恐るべき美少女ピアニストの
衝撃的な登場、
以来、CDを買い込んでいます。

さて、2019年2月、
難病の「多発性硬化症」と
診断されたことを公表したアリス。
昨年2021年には
アルバム「Echoes Of Life」を発表し、
独特の感性を披露してくれました。
さらなる活躍を期待します。

〔アリス=紗良・オットのCD〕

〔リスト「超絶技巧練習曲」について〕
この曲にはラザール・ベルマンの
圧倒的な名演盤があります。

ただし、過剰ともいえる表現に、
どうしても聴き疲れしてしまいます。

その点、アリスのこの盤は、
聴き疲れすることなく
繰り返し聴きたくなるような
魅力を放っています。
もちろん、どちらが上かなどという
問題ではありません。

(2022.9.18)

【リスト「超絶技巧練習曲」のCD】

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