レオンハルトのゴルトベルク変奏曲

チェンバロという手があったか!

「名のある曲は聴いておかねば」という
思いで、バッハの苦手な私も、
このゴルトベルク変奏曲については、
名盤の誉れ高いグールドの新旧両盤を
手元に置いて聴いてきました。
でも、あまりよく理解できないまま
十数年が経過してしまいました。
今回、「DHM-BOX」
収められていたこの一枚を聴いて、
この曲に接近できた次第です。

BOX1 Disc3

J.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲 BWV.988」

J.S.バッハ:
 ゴルトベルク変奏曲 BWV.988

グスタフ・レオンハルト(cemb)
録音:1976年

ピアノの響きよりも、
このチェンバロの音色の方が、
この曲に合っているような
気がしています。
ピアノと異なり、チェンバロは
過度な装飾や面白い仕掛けのしにくい
楽器です。
このレオンハルト盤は、
そうしたものに見向きもせず、
ただひたすらバッハの残した楽譜の
構造美・造形美を
追求したような演奏です。
1976年という早い段階で
録音されたにもかかわらず、
その演奏は古楽器然とした
学究的なものではなく、
音楽として
自然に聴くことのできるものです。

チェンバロなどの古楽器は、
それぞれの楽器特有の音色があり、
好き嫌いが分かれることが
多いようです。
本盤の演奏に使用されている
チェンバロは、1975年パリで作られた
フランス式二段チェンバロ
「ウィリアム・ダウド製」。
これは歴史的名器ブランシェ・モデルの
再現ということで、
ピアノとは異なる豊かさを
帯びているのもうなずけます。

1685 J.S.Bach

先日読んだ本「西洋音楽史」の中で、
著者・岡田暁生氏は
バッハの音楽について、
「聴いて感覚的に楽しむ、というより、
 楽譜として読んだ時に初めて、
 その信じられないような
 作曲技法の腕前が
 理解されるようなところがある」

述べています。
そのバッハの音の世界に対し、
「聴いて感覚的に楽しむ」ことに
挑戦したのが
グレン・グールドだったとすれば、
「信じられないような作曲技法」を
一般人が耳で聞いて理解できるような
演奏として創り上げたのが、この
グスタフ・レオンハルトだったと
いえるのではないでしょうか。

今日のオススメ!

このゴルトベルク変奏曲、
バッハが音楽を手ほどきした
ゴルトベルクが、不眠症に悩む
カイザーリンク伯爵のために
この曲を演奏したという
逸話が残っています。
もっともゴルトベルクは
当時14歳の少年であったことから、
この話には懐疑的な見方が
なされることが多いようです。
これもかつて読んだ本なのですが、
セレンザという作家の書いた
童話「ゴルトベルク変奏曲」に、
その経緯が紹介されています
(おそらくかなりの創作が
加わっていると思われるのですが)。
そうした観点から考えても、
聴く者の心に安らぎを与える
レオンハルトの演奏は、この曲の
本質に迫っているのではないかと
考えられます。

グールドの2枚があれば、
あとはいらないだろうと考えていた
ゴルトベルク変奏曲ですが、
この盤を聴いて目から鱗が、いや
耳から鱗が落ちました。
そうか、
チェンバロという手があったか!
やはり、音盤は愉し、です。

〔グールドのゴルトベルクCD〕
グレン・グールドの新旧録音は、
手を替え品を替え
再発売されてきました。
そのせいもあって、もはやその存在は
神格化されつつあります。

〔ゴルトベルクの他のCD〕
でも、それでは
音楽の楽しみが狭まります。
私も急遽、
ペライア盤を購入しましたが、
まだまだ面白そうな録音が
たくさんあります。

created by Rinker
ソニーミュージックエンタテインメント

今狙っているのはこれらの盤です。

〔塚谷水無子のゴルトベルク〕
日本人演奏家も
見逃すことができません。
この塚谷水無子氏、
いくつもの鍵盤楽器を用いて
ゴルトベルクを録音しています。
注目です。

〔この記事で紹介した本〕

(2022.11.12)

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんなCDはいかがですか】

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