ランス大聖堂の音楽とパリ・ノートルダム楽派の音楽

「癒やし」の対極にある響き

先日取り上げた
マンロウの「ゴシック期の音楽」は、
中世の音楽を集大成したかのような
アルバムです。それに近いものが
DHM-BOXにもあります。
「ランス大聖堂の音楽と
パリ・ノートルダム楽派の音楽」と
題された本盤です。
ところが聴いてみると
「ゴシック期の音楽」とは
違った印象を受けました。

BOX1 Disc27
ランス大聖堂の音楽と
パリ・ノートルダム楽派の音楽

BOX1 Disc27

マショー:
 ノートルダム・ミサ
ペロティヌス:
 かしらたちは集まりて
作者不詳:
 あわれみ深きわれらの父よ
シャンスリエ:
 いいたまえ、キリストの真実よ
ペロティヌス:
 地上のすべての国々は
作者不詳:
 「アレルヤ、よみがえりたまいし
  キリストは」&「死は」
ペロティヌス:
 アレルヤ、
  乙女マリアのほまれある御誕生

デラー・コンソート
コレギウム・アウレウム団員
アルフレッド・デラー(指揮)
録音:1960~1961年

この盤の主軸は、1曲目の
「ノートルダム・ミサ」でしょう。
アルス・ノヴァの時代の代表的作曲家・
マショー(1300年頃-1377年)の
作品であり、6章のミサ通常文が
一人の作曲家によって作曲された
現存する最古の作品として、
ミサ曲の中でも
歴史的に重要な位置を占める楽曲です。
アルバム・タイトルにある
「ランス大聖堂の音楽」は、
この曲がランス大聖堂で
1364年に行われたシャルル5世の
戴冠式で演奏されたとする説から
付されたものでしょう
(ただしその説は疑問視されている)。

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もう一つのアルバム・タイトルの文言
「パリ・ノートルダム楽派の音楽」は、
マショーの時代より約一世紀遡ります。
代表的作家としてペロティヌス
(12世紀末ー13世紀初頭頃)の作品
「かしらたちは集まりて」
「地上のすべての国々は」
「アレルヤ、乙女マリアの
ほまれある御誕生」の3曲が
収められています。
本盤2曲目の「かしらたちは集まりて」は、
1199年の聖ステファノの日(12月26日、
ノートルダム大聖堂の新築された
翼面の献堂式が行われた)のため、
また5曲目の「地上のすべての国々は」は、
1198年のクリスマスのために
作曲されたといわれています。

本盤には作者不詳の曲も
2曲収められているのですが、
作曲者の名前が記されているもう一人が
フィリップ・ル・シャンスリエです
(1165年頃-1236年)。
この人物は13世紀初頭の
パリ大学の学長で、
作曲家としてよりは哲学者もしくは
詩人としての業績が大きいようです。
「シャンスリエ作」として
残されている曲は
すべて既存の旋律を利用した
コントラファクトゥム、つまり
替え歌であり、厳密な意味での
「作曲」ではないからなのでしょう。
なお、パリ大学は
ノートルダム大聖堂の付属学校に
起源を持ちます。

さて、カウンター・テノールの
デラー率いるデラー・コンソートによる
本盤が録音されたのは1960~1961年。
古楽演奏としては最初期のものであり、
現在のそれとは
やや趣を異にしています。
一言でいえば、
かなりゴツゴツした感じがします。
リズムが角張った形で強調され、
歌唱も滑らかではなく
ざらついた印象を受けます。
不協和音のぶつかり合いにも、
原初の響きのようなものを
感じさせます。
ペロティヌスの2曲は、
マンロウの「ゴシック期の音楽」にも
収録されているので聴き比べましたが、
やはり本盤は
どこか尖った質感があります。
滑らかに歌おうとはしていない
唱法です。
しかもバグパイプのような音色の楽器が
聴き取れます(マンロウ盤にはない)。
教会音楽であるはずなのですが、
まるで民族音楽のような
感触があります。

Messe Nostre Dame

ただしそれは決して
悪い方向に作用しているのではなく、
強い緊張感と迫力を生み出すことに
成功しているのです。
本盤の音楽全体が
荒々しいエネルギーに満ちているます。
中世の音楽はよく
「癒やしの音楽」といわれることが
多いのですが、本盤に関しては
「癒やし」の対極にあると
言わざるを得ません。

こと古楽の場合、
1枚の音盤だけでその曲やその作曲家、
その時代の音楽を理解しようとしては
いけないのでしょう。
いくつかの音盤を聴き比べなければ
音楽の実像に迫ることは
できないのかも知れません。
だからこそ、
やはり、音盤は愉し、です。

〔関連記事:「ゴシック期の音楽」〕

〔関連記事:中世の音楽〕

(2022.12.10)

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