クララ=ジュミ・カンのベートーヴェン

端正な正統派の演奏の魅力

クララ=ジュミ・カン
知っていますか?
ドイツ国籍の
韓国系ヴァイオリニストで、
ちなみに美人さんです。
2010年の
仙台国際音楽コンクール優勝により、
日本でも注目されました。
その記念として発売された
ベートーヴェンメンデルスゾーン
協奏曲の音盤が素敵で
(ジャケット写真も素敵で)、
クララ=ジュミ・カンを
応援していたのですが、
ついに出ました。ベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタ全集です。

ベートーヴェン:
ヴァイオリン・ソナタ全集
クララ=ジュミ・カン キム・ソヌク

Beethoven Violin Sonatas

ベートーヴェン:
 ヴァイオリン・ソナタ全集

Disc1
 第1番ニ長調 Op.12-1
 第2番イ長調 Op.12-2
 第3番変ホ長調 Op.12-3

Disc2
 第4番イ短調 Op.23
 第5番ヘ長調 Op.24「春」

Disc3
 第6番イ長調 Op.30-1
 第7番ハ短調 Op.30-2
 第8番ト長調 Op.30-3

Disc4
 第9番イ長調 Op.47「クロイツェル」
 第10番ト長調 Op.96

クララ=ジュミ・カン(vn)
キム・ソヌク(p)
録音:2020年

以前、そのベートーヴェンの
ヴァイオリン協奏曲の演奏を
取り上げた際、
「端正な正統派の演奏」と書きました。
コパチンスカヤのような
独創的な感性で型破りな演奏をする
ヴァイオリニストとは
対極にあるようなスタイルなのです。
強烈な個性はないかも知れませんが、
いつまでも味わいが尽きないような
魅力を秘めた演奏だと感じました。

それから十数年が過ぎての、
今回のヴァイオリン・ソナタ全集です。
その姿勢は
まったく変わっていませんでした。
丁寧で繊細な音づくりの全集です。
奇をてらったところのない、
しっかりと地に足のついた演奏です。
特に弱音部の美しさが秀逸です。
ガラス細工を鏤めたような美しさです。
それでいながら
強音部は力強さに欠けることなく、
その対比が絶妙なバランスを
創り上げています。

ピアノのキム・ソヌクが同じスタイルで
しっかりと合わせているのにも
好感が持てます。
二人で音楽を紡ぎ上げているという
感覚が伝わってきます。

1770 Beethoven

味わいどころとしては
Disc1のOp.12の3曲でしょうか。
クララ=ジュミ・カンの清楚な演奏が
最も映える曲と考えます。
第1番はヴァイオリンとピアノが
お互いに支え合いながら
歌っているような、
この曲の持ち味が
生かされた演奏となっています。
第2番の躍動感溢れる表現も見事です。
若々しいベートーヴェン像が
紡ぎ出されていきます。
そして第3番では
ベートーヴェンらしい雄大さも
自然に表出されるような
仕上がりとなっています。
Op.12がこれだけ素敵な
音楽であったことを
改めて納得させてくれる、
味わい深い演奏です。

もちろん名曲の誉れ高い第5番も
若い二人にふさわしい
爽やかな演奏です。
こちらはYouTubeで
コンサートの演奏の映像が
公開されています
(もちろんCDとは別の録音)。
YouTubeではさすがに音が貧しく、
クララ=ジュミ・カンの美音が
収まりきっていないのですが、
雰囲気は十分に伝わります。

Beethoven, Violin Sonata No. 5

第9番・クロイツェル・ソナタも素敵です。
こちらもメラメラと燃えるような
激しさはない代わりに、
青い炎のような
静かな情熱が感じられる演奏です。
コパチンスカヤや
リナ・トゥール・ボネのような
「動」の演奏こそ
この曲の本質に迫るのでしょうが、
クララ=ジュミ・カンの
「静」の演奏もまた、
この曲に対する一つの
アプローチの仕方だと思います。

第10番Op.96の映像も
YouTubeにありました。
こちらはかなり立派なホールでの
コンサートのようです。

Beethoven, Violin Sonata No. 10

昨年(2021年)に発売されたのですが、
あまり話題になることが
なかったようです。
正統派の演奏というのは
得てしてそういうものでしょう。
もしベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタ全集を
お持ちでない方に
最初に一組を推薦するとすれば、
私はこの音盤を選びます。

ベートーヴェンの
ヴァイオリンソナタ全集の音盤は
もう買わなくてもいいと
思っていながら、
ついついまた買ってしまいました。
しかしこの曲集は、
ヴァイオリニストとピアニストの
両者の個性が前面に出る特質があり、
演奏者によってその顔立ちを変える
奥の深い音楽なのです。
それを味わえるのですから、
やはり、音盤は愉し、です。

(2022.12.18)

【クララ=ジュミ・カンの音盤】

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以下の記事をリニューアルしました。

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