希少なハイドン・オペラ、そしてボニタティブスの魅力

「ハイドン・オペラ・アリアを歌う」

「DHM-BOX」の魅力の一つは、
オペラアリア集が
いくつか入っていることです。
「vivarte-BOX」にはそうした盤はなく、
私自身もアリア集といったものに
これまで手を出していなかった分、
新鮮です。本盤の魅力は
「希少なハイドン・オペラとの出会い」と
「メゾソプラノのボニタティブスの美声」
との二点にあります。

Deutsche Harmoni Mundi BOX 2

BOX2 Disc25
アンナ・ボニタティブス
ハイドン・オペラ・アリアを歌う

BOX2 Disc25

ハイドン:
 歌劇「報いられた真心」より
 歌劇「オルランド・パラディーノ」より
 歌劇「真の貞節」より
 歌劇「勘違いの不貞」より
 歌劇「無人島」より
 カンタータ「ナクソスのアリアンナ」

アンナ・ボニタティブス(Ms)
イル・コンプレッソ・バロッコ
アラン・カーティス(指揮・fp)
録音:2008年

5つのオペラからの
序曲+アリア数曲という構成ですが、
収録されているのはハイドン
珍しいオペラ作品ばかりです。
「報いられた真心」は、
1970年にアムステルダムで
復活上演された作品であり、
ドラティ指揮の音盤が
早くから出ていましたが、
現在ではDavid Golubなる
指揮者の盤が見当たるのみです。
「オルランド・パラディーノ」もまた
埋没していたオペラですが、
やはりドラティが録音し、
近年ではアーノンクールも録音、
ヤーコプスによる映像も
登場しています。
「真の貞節」もドラティが録音し、
復活したオペラです。
残念ながらそれに続く音盤は
ないようです。
「勘違いの不貞」については
ドラティのほかにクイケン盤、
Sandor盤があるようです。
「無人島」は2009年にガイグ盤、
2020年にベルリン古楽アカデミー盤が
登場するなど、新盤に恵まれています。
ハイドンのオペラそのものが
忘れ去られている面がありますので、
致し方ありません。
そうしたハイドン・オペラのアリアが
聴けるのですから本盤は貴重です。

1732 Haydn

イタリア生まれのメゾ・ソプラノ歌手
アンナ・ボニタティブスは「ズボン役」
(オペラにおいて男装する女性歌手の
役柄)として注目されていました。
メゾ・ソプラノでは
私がこれまで好んで聴いてきたのは
アンネ・ゾフィー・フォン・オッターです。
彼女もいくつか
ズボン役をこなしましたが、
気品のある声で、むしろ高貴な女性の
役柄が似合っていると感じます。
一方こちらのボニタティブスは
しっかりと青年役が似合っている
メゾ・ソプラノです。
美声であるととともに、
ユニセックス的な魅力を
存分に発揮しています。

注目すべきはその表現力でしょう。
しっとりと歌う曲もあれば、
軽く歌い転がす場面もあります。
情熱的で力強い役柄もあれば、
繊細な女性を演じている歌もあります。
解説が添付されていない関係上、
何の役柄を歌っているのか
分かりませんが、舞台上の彼女の姿は
その表現からしっかりと像を結びます。

最後はピアノ伴奏によるカンタータで
締めくくられます。
むしろこちらの方が
ボニタティブスの声が
生き生きと聴こえてきます。

なお、指揮者であり、
最後のカンタータのフォルテピアノを
演奏したアラン・カーティス氏は
すでに2015年、
惜しまれながら亡くなっています。
本盤でも演奏している
古楽器アンサンブル
「イル・コンプレッソ・バロッコ」を
創設し、ヘンデル、モンテヴェルディ、
ポルポラ、ヴィヴァルディ、
ハイドンといった作品に取り組んで
精力的に録音を行っていました。
特にヘンデル復興の第一人者であり、
もう少し時間が与えられていれば、
さらに多くの魅力的なヘンデル録音を
遺したと考えられます。

先日は「DHM-BOX」のヌリア・リアルの
美声に酔いしれましたが、
このアンナ・ボニタティブスは
またひと味違った魅力であり、
十分に満足できました。
やはり、音盤は愉し、です。

(2022.12.25)

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