フィリップ・ル・シャンスリエ作品集

セクエンツィアの素敵な音楽

マンロウの「ゴシック期の音楽」
中世の音楽、
特にノートルダム学派の音楽を知り、
デラー・コンソートの
「ランス大聖堂の音楽と
パリ・ノートルダム楽派の音楽」

その素晴らしさに気づき、
その中のシャンスリエなる作曲家に
興味を持ち、
その結果たどり着いたのが本盤です。
シャンスリエ(と思われる)作品9曲を
集めたアルバムです。

「フィリップ・シャンスリエ作品集」
セクエンツィア

「フィリップ・シャンスリエ作品集」

シャンスリエ:
 粘土とれんがより解き放たれ(3声)
 太陽は星より生まれ
 鋭き先端にて刺し通す釘が
 まことの光を享受せんとするならば
 ギデオンの麦打ち場は
 乙女たちのレ
 言いたまえ、キリストの真実よ
 真実、公正、寛大さは
 粘土とれんがより解き放たれ(1声)

セクエンツィア
 バーバラ・ソーントン(vo,organetto)
 ベンジャミン・バグビー(vo,hp)
 マルグリート・ティンデマンス(fidel)
エリック・メンツェル(vo)
エドマンド・ブラウンレス(vo)
スティーヴン・グラント(vo)
リチャード・コーベイユ(vo,symhonia)
録音:1986年

本盤のサブタイトルが
「ノートル・ダム学派の
コンドゥクトゥス,レ,
セクエンツィア,ロンデルス」と
なっています。
「コンドゥクトゥス」とは、
聖歌の旋律とは関係なく
まったく新しく作られた旋律に
もとづいた曲のことです。
当時は一から旋律を創るのではなく、
グレゴリオ聖歌に新しくハモりや対
旋律を加えるということが一般的でした
(現代では「パクリ」といわれるもの)。
単声あるいは多声(2~4声)であり、
歌詞はラテン語で、
多くが宗教的な内容を持つのですが、
典礼に結びついたものではないのが
特徴です。
「レ」とは、
単声の世俗歌曲の旋律のことです。
「セクエンツィア」とは、
グレゴリオ聖歌とは異なる、
中世に新たに作られた
西欧文化独自の聖歌を意味しています。
そして「ロンデルス」は、
中世フランスの詩と音楽における
重要な形式「ロンドー」の前段階です。
解説書を読む限り、本盤においては
「ロンデルス」と「ロンドー」を
厳密には区別していないようです。
こうした形式の曲が
9曲収録されているのです。

1165 Chancelier

中世の音楽は、ただ聴いているだけでは
よく理解できません。
音楽の本質を理解するには、
ある程度の知識が必要となります。
勉強のために
音楽を聴くのではないのですが、
必要な知識が身につくと、
その音楽の本当の姿をより正しく
認識することができるのです。

さて、
演奏団体「セクエンツィア」ですが、
中世音楽のアンサンブルであり、
素敵な音盤を
いくつも創り上げています。
主要メンバー3人を軸とし、
4人の歌手たちが加わり、
透明感溢れる魅力たっぷりの音楽を
編み上げています。
特に2曲目「太陽は星より生まれ」は
何度でも聴いていたいと思わせる
出来映えです。
単声のコンドゥクトゥスであり、
バーバラ・ソーントンの
艶と伸びのある美声が、
無伴奏の中で6分間響き渡るのは
圧巻です。
8曲目「真実、公正、寛大さは」も同様に
美しい歌声を堪能することができます
(こちらは器楽伴奏あり)。

今日のオススメ!

古楽に疎かった頃は、
中世の音楽に対して
「未完成な音楽」という
勝手なイメージを持っていました。
完全に間違っていました。
マンロウの「ゴシック期の音楽」から
デラー・コンソートの「ランス大聖堂」、
そしてこの
セクエンツィアの「シャンスリエ」と、
ノートル・ダム学派の音楽を
聴きつなげていくと、
その音楽の魅力を思い知らされます。
ロマン派の音楽(19世紀)の
はるか以前の、
12世紀末から13世紀初頭にかけて、
このような素晴らしい音楽が
すでに出来上がっていたことに
驚かされるばかりです。
音盤によるタイム・トラベルを
経験したかのような錯覚に陥ります。
やはり、音盤は愉し、です。

(2023.5.7)

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