LAVA~18世紀ナポリのアリア集

ナポリ楽派の素敵なオペラを味わえる

古学の音盤を集めた
「DHM-BOX」第2集には、
3枚のオペラ・アリア集が
収録されています。すでに
ヌリア・リアルによる
「ヘンデル・オペラ・アリア集」
アンナ・ボニタティブスによる
「ハイドン・オペラ・アリア集」
取り上げましたが、残る一枚が本盤
「18世紀ナポリのアリア集」です。

DHM-BOX2

BOX2 Disc27
「LAVA~18世紀ナポリのアリア集」

BOX2 Disc27

ペルゴレージ:
 歌劇「オリンピアーデ」より
 「Tu me da me dividi」
ポルポラ:
 歌劇「ルチオ・パピーリオ」より
 「Morte amara」
 歌劇「フラヴィオ・アニチオ・
 オリブリオ」より
 「Se non dovesse il pie」
ヴィンチ:
 歌劇「アルタセルセ」より
 「Fra cento affanni e cento」
レオ:
 歌劇「イル・デメトリオ」より
 「Manca sollecita」
ハッセ:
 歌劇「ヴィリアーテ」より
 「Come nave in mezzo all’onde」
ペルゴレージ:
 歌劇「シリアのハドリアヌス帝」より
 「Lieto cosi talvolta」
ハッセ:
 歌劇「アンティゴネー」より
 「Perche, se tanti siete」
ヴィンチ:
 歌劇「アルタセルセ」より
 「No che non ha la sorte…
 Vo solcando un mar crudele」
ポルポラ:
 歌劇「ルチオ・パピーリオ」より
 「Tocco il porto」
ハッセ:
 歌劇「捨てられたディドーネ」より
 「Tu dici ch’io non speri…
 L’augelletto in lacci stretto」
ペルゴレージ:
 歌劇「オリンピアーデ」より
 「Mentre dormi amor fomenti」

ジモーネ・ケルメス(S)
レ・ムジケ・ノーヴェ
クラウディオ・オゼーレ(ディレクター)
録音:2008年

18世紀にナポリを中心にして、
オペラの形式に大きな足跡を残した
楽派「ナポリ楽派」。
その前期にあたる18世紀前半の
作曲家たちの曲が集められています。

第一曲、中盤、そして最終曲を、
もっとも有名な
ペルゴレージ(1710-36)で
押さえています。しかし
演奏機会の多い「奥様女中」を避け、
「オリンピアーデ」
「シリアのハドリアヌス帝」を
取り上げるなど、新しい音楽の
発掘が試みられています。
1曲目「オリンピアーデ」からのアリアは
劇的な音楽であり、
アルバムタイトル「LAVA」
(「溶岩」の意味)そのものといえます。
中盤7曲目「ハドリアヌス帝」は、
オーボエとの掛け合いが展開する
聴き応えのある曲です。
最終曲で再び「オリンピアーデ」が
登場しますが、
こちらは激しさの中にも安らぎが
見いだせるような曲であり、
このアルバムの締めくくりにふさわしい
曲調となっています。

続く第2曲、第3曲、第10曲の
3曲を占めているのが
ポルポラ(1686-1768)です。
ヘンデルのライバルと言われていた
作曲家であり、以前、当サイトでも
ヘンデルとポルポラの作品を
収録した音盤
「決闘!ポルポラ対ヘンデル」
取り上げています。
2曲目の
「ルチオ・パピーリオ」からのアリアは、
冒頭の旋律の美しさに心を奪われます。
3曲目「フラヴィオ…」は、
ガラス細工のような
美しさに満ちています。
この2曲は、ペルゴレージに比べ、
繊細さが感じられる作品ですが、
10曲目「ルチオ・パピーリオ」の
もう一つのアリアでは、
華やかさが加わり、高い技巧も
要求される音楽となっています。

第4、9曲には
レオナルド・ヴィンチ(1690-1730)
(ダ・ヴィンチではない!)の
「アルタセルセ」からのアリア2曲が
配置されています。
どちらも感情の激しい表出が
感じられるアリアです。
「アルタセルセ」の脚本自体が
王殺しという
シリアスな内容を含むドラマですので、
このアリアが
劇的であるのもうなずけます。

5曲目「イル・デメトリオ」は
レオ(1694-1744)の作品です。
他の作品とは異なり、
穏やかな曲調(中盤で激しさを
感じさせる一節が現れるが)で、
心に染み入るような情緒溢れる旋律の
アリアとなっています。
ここだけを繰り返し聴いてしまいます。

第6、8、11曲は
ハッセ(1699-1783)の作品です。
このヨハン・アドルフ・ハッセなる
作曲家だけは、
イタリア人ではなくドイツ人です。
最初に創ったオペラがヒットし、
イタリアに渡ることとなり、
ナポリで活躍しました。
6曲目「ヴィリアーテ」からのアリアは、
のちのモーツァルトの
「夜の女王のアリア」にも似た
コロラトゥーラ(細かく速い音符の
連なりを用いて装飾を施し、
まるで声を転がすように歌う技法)が
用いられ、
技巧的な面白さを感じさせます。
8曲目「アンティゴネー」、そして
11曲目「捨てられたディドーネ」も
感情を激しく吐露したような音楽です。

ソプラノのジモーネ・ケルメスは、
これら技巧を要求されるアリアを、
実に表情豊かに再現しています。
劇的な激しさを必要とする場面も、
静かで繊細さを求められる旋律も、
すべて的確に表現しているように
感じられます。
声の美しさでは他のソプラノ歌手に
一歩譲るにしても、
その技巧の高さや表現力では
群を抜いている歌手であることに
間違いはありません。

実は私は、単独の盤で
オペラ・アリア集の音盤を
購入したことがありません。
こうしたBOXでは、
普段聴くことのないジャンルの魅力に
気づかされることが多く、
新しい音楽との
出会いの場となっています。
本盤でも、
ナポリ楽派の作曲家たちの素敵な音楽、
そしてジモーネ・ケルメスという
魅力ある歌手と
出会うことができました。
やはり、音盤は愉し、です。

〔本盤に収録されている作曲家〕
ポルポラ(1686-1768)
ヴィンチ(1690-1730)
レオ(1694-1744)
ハッセ(1699-1783)
ペルゴレージ(1710-36)

LAVA

〔本盤収録曲の全曲盤について〕
こうして聴き応えのあるアリアを
聴いてしまうと、ついオペラ全曲盤が
欲しくなってしまいます。
ところが全曲盤の録音は
決して多くはありません。
以下のものが見つかりました。

ペルゴレージ「オリンピアーデ」

ペルゴレージ「シリアのハドリアヌス帝」

ヴィンチ「アルタセルセ」

ハッセ「捨てられたディドーネ」

実は本盤の収録作品は、
かなりマニアックな作品であり、
その多くが世界初録音なのだとか。
やはり素敵な一枚です。

(2023.6.3)

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