ヒルデガルト・フォン・ビンゲン、謎に包まれた音楽

グレゴリオ聖歌とルネサンスを繋ぐ音楽

謎に包まれている中世の音楽の中で、
もっとも古い時代に
名前の記録されている作曲者
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン
彼女の音楽を集めた5枚組CD-BOX
「ヒルデガルト・フォン・ビンゲンへの道」
その4枚目を以前取り上げましたが、
今日はその1枚目です。
やはり謎に満ちた音楽が広がります。

ヒルデガルト・フォン・ビンゲンへの道
CD1
平和のくちづけ、
デンデルモンド写本からの歌曲集

ヒルデガルト・フォン・ビンゲンへの道

ヒルデガルト・フォン・ビンゲン
 おお、光輝く宝玉よ
  詩篇第121番「Laetus sum」
 Aer enim volat
 Ave, Maria, o auctrix vitae
 オ・スペクタビレス・ヴィリ
作曲者不詳:
 Improvisation
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン
 愛情はすべてに富む
  詩篇第109番「主は言われた」
 三位一体のために
 O ignee Spiritus
 O lucidissima Apostolorum turba
 O cho(h)ors militiae floris
 O viriditas digiti Dei
 おお、偉大なる父よ

ペル=ソナット
ザビーネ・ルッツェンベルガー(S・ベル)
バプティスト・ロメイン
 (中世フィドル・ボウドリラ)
録音:2012年

ヒルデガルト・フォン・ビンゲン
1098年生まれ、
1179年没といわれています。
グレゴリオ聖歌以降の
多声以前の単旋律の声楽曲です。
ヒルデガルトの曲がそうなのか、
あるいはここで収録されている
ザビーネ・ルッツェンベルガーの
ソプラノがそうなのかわかりませんが、
非情に深遠で、聴き手の心の
琴線に響くような曲となっています。
派手さは全くないものの、
特別な宗教体験をしているかのような
印象を受けるのです。

Hildegard von Bingen

1140年頃からヒルデガルトが
創り始めた宗教曲は、
現在77曲が2つの写本
「デンデルモンド写本」「リーゼン写本」に
残されています。
特に、1170年頃に成立した
「デンデルモンド写本」は、
ヒルデガルト自身が
関わっているものと思われるため、
特に重要とされています。
本盤は、その
「デンデルモンド写本」からの曲が
収録されているのです。

本盤に収録されているのは12曲。
うち一曲は作曲者不詳の
インストルメンタルですが、
それも含めて
12世紀の音楽が十分に愉しめます。
でも、やはり味わいどころは
ザビーネ・ルッツェンベルガーの
ソプラノでしょう。
癒やされるような、
透明感溢れる美しい歌声に
魅了されてしまいます。
このルッツェンベルガーは、
ヒルデガルトの作品を
最も演奏している歌手の一人です。
伴奏のペル=ソナットは
彼女自身のアンサンブルであり、
彼女の美声がもっとも引き立つような
演奏を披露しています。

何度も繰り返して聴いているのですが、
グレゴリオ聖歌とは
全く異なった印象を受けます。
それでいて、
ギヨーム・ド・マショー以降の作曲家の
声楽曲とも違うのです。
グレゴリオ聖歌と
聴こえ方が異なるのは、
本盤収録曲が女声であること、
独唱であること、
簡単な楽器による伴奏付きであるため、
当然といえば当然なのですが、
それだけではなさそうです。
また、マショー以後の作曲家にとって、
自己表現の産物としての
音楽であったのに対し、
ヒルデガルトのそれは、
あくまでも信仰者としての活動の
一環であったことも、
印象の違いの理由として考えられます。
グレゴリオ聖歌とルネサンス音楽を
繋ぐ位置にあり、
そのどちらでもありながら、
かつそのどちらでもなく、
ひときわ個性を輝かせて存在している
音楽なのです。

今日のオススメ!

癒やしの音楽として聴くのではなく、
宗教的気分に浸るのでもなく、
12世紀に花開いた一つの音楽として、
しっかりと味わい尽くすのが
正しい聴き方といえるでしょう。
やはり、音盤は愉し、です。

〔関連記事:CD4〕
「ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの
 歌曲&アンティフォナ
 &初期ルネサンスのモテット」

〔ヒルデガルト・フォン・ビンゲン音盤〕

(2023.7.23)

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