ビルスマの「17世紀のチェロのための作品集」

チェロ音楽の源流を知ることのできる一枚

古楽をほとんど聴かなかった頃、
チェロという楽器は
バッハの「無伴奏チェロ組曲」から
始まったのだと、
勝手に勘違いしていました。
そうではなく、
バッハやヴィヴァルディ以前の時代から
チェロは重要な楽器として
定着していたということを、
改めて実感させてくれるのが
この一枚です。
しかも弾いているのはビルスマ。
面白くないはずがありません。

DHM-BOX1

BOX1 Disc12
ビルスマ
「17世紀のチェロのための作品集」

BOX1 Disc12

フレスコバルディ:
 カンツォーネ 第16番 イ短調
 カンツォーネ 第8番 ト短調
 カンツォーネ 第15番 ヘ長調
ガブリエッリ:
 リチェルカール 第5番 ハ長調
 2つのチェロのためのカノン ニ長調
 リチェルカール 第1番 ト短調
 ソナタ ト長調
 リチェルカール 第4番 変ホ長調
ヤッキーニ:
 ソナタ ハ長調 Op.3-10
ガブリエッリ:
 リチェルカール 第2番 イ短調
ヤッキーニ:
 ソナタ イ短調 Op.1-8
ガブリエッリ:
 リチェルカール 第3番 ニ長調
 ソナタ イ長調
アントーニ:
 リチェルカール 第3番 ヘ長調
 リチェルカール 第10番 ト短調
ヤッキーニ:
 ソナタ ト長調 Op.3-9
ガブリエッリ:
 リチェルカール 第6番 ト長調
 リチェルカール 第7番 ニ短調
ヤッキーニ:
 ソナタ 変ロ長調 Op.1-7
アンナー・ビルスマ(vc)
ボブ・ファン・アスペレン(cemb)
リデゥイ・シャイフェス(vc)
録音:1988年

通奏低音を担当していたヴィオローネは
やがて小型化し、
ソロパートを担当するようになり、
旋律楽器として
認められる様になりました。
それはさらに進化し、
17世紀後半、イタリア・ボローニャで
チェロが製作されることになります。
そのイタリアでは、
チェロの名手たちが登場し、
彼らのための作品が
作られ始めたのです。
本盤は、そうした17世紀の
チェロの作品が集められています。

収められているのは
4人の作曲家の音楽全19曲。
最長でも8分台であり、
ほとんどが3~5分程度の
小品ばかりです。
いささか地味ではありますが、
愛らしい作品ばかりであり、
チェロの魅力が十分に伝わってきます。

最初の3曲は
フレスコバルディ(1583-1643)。
数多くの鍵盤楽曲を遺した
イタリアの作曲家ですが、チェロの曲も
素敵な小品を創り上げていました。
落ち着いた味わいのある3曲です。

しかしながら、
4曲目からは雰囲気が一転します。
ガブリエッリ、ヤッキーニ、
アントニーニの3人の作曲家の曲からは、
チェロという楽器が
進化していったことが
感じとれる音楽となっているのです。

本盤中最も多い10曲が収録されている
ガブリエッリは、1651年に生まれ、
1690年に没した作曲家であり、
ヴェネツィアの
アンドレーア・ガブリエーリ、
ジョヴァンニ・ガブリエーリとは
別人物です。
作曲家であるとともに
チェリストであり、ボローニャで
活躍した演奏家の一人です。
フレスコバルディよりも
チェロが闊達かつ雄弁に
音楽を語っています。

同じくボローニャで活躍した
チェリストの一人が
ジュゼッペ・マリア・ヤッキーニ
(1667-1727)です。
ここには4曲が収録されています。
4曲ともチェロと通奏低音による
ソナタなのですが、
速いパッセージで弾ききらなければ
ならない曲もあり、
チェロに要求される技巧が格段に
高くなっていることがうかがえます。

4人目、ジョヴァンニ・バッティスタ・
デリ・アントーニ(1660?-1697)は
2曲が収録されています。
2曲ともチェロの独奏曲であり、
この延長線上にバッハの無伴奏が
現れることを予感させるような
仕上がりとなっています。

17世紀のチェロのための作品集

まさにチェロ音楽の
源流を知ることのできる
一枚となっています。
ビルスマがこの部分に
光を当てていなければ、
私たちはまだまだチェロ音楽の真価を
理解できないままだったかも
知れません。
しかもビルスマは
単に紹介するだけでなく、
愉悦に満ちた音楽として
提示してくれました。
地味ではあるものの、味わい深く、
意義のある盤となっています。
やはり、音盤は愉し、です。

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(2023.8.13)

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