モンテヴェルディ「ウリッセの帰還」を聴く

やはりモンテヴェルディは天才だった

モンテヴェルディの現存している
3つのオペラのうち、
ガーディナーが振った2つ
(「オルフェオ」1985年録音、
「ポッペアの戴冠」93年)については、
すでに記事を掲載しました。
「ウリッセの帰還」だけは
入手していなかったのですが、
例によってAmazon「最後の一枚価格」、
なんと3枚組の最新録音の本盤が
889円という驚異的な価格で
出ていたため、購入した次第です。

モンテヴェルディ:
 歌劇「ウリッセの帰還」全曲

Ulisse

モンテヴェルディ:
 歌劇「ウリッセの帰還」全曲
  (ベルナルド・ティッチ校訂版)

ウリッセ
…チャールズ・ワークマン(T)
テレーマコ
…アニチオ・ゾルジ・ジュスティアーニ(T)
ペネーロペ
…デルフィーヌ・ガルー(A)
イーロ
…ジョン・ダザック(T)
イル・テンポ(時)
…フランチェスコ・ミラネーゼ(Bs)
ジュノーネ
…マリーナ・デ・リーソ(Ms)
ラ・フォルトゥーナ(幸運)
…エレオノーラ・べロッチ(S)
ジョーヴェ
…ジャンルカ・マルゲーリ(Br)
アカデミア・ビザンチナ
オッターヴィオ・ダントーネ(指揮)
録音:2021年

本当にオペラを愉しむのであれば、
やはり映像付きの
Blu-rayを買うべきでしょう。
音だけのCD、しかも
歌詞対訳のない輸入盤ともなると、
愉しみ方が難しくなります。
しかし、大まかな粗筋を理解した上で、
音楽が表現しているものを、
すべて受け止めるような聴き方を、
私はしています。

ウリッセは、いわゆる英語の
「ユリシーズ」のことであり、
トロイ戦争において「トロイの木馬」の
知略を展開した知将です。
そのウリッセに着目し、
ホメ―ロスの叙事詩「オデュッセイア」の
最終譚に題材を採った
「ウリッセの帰還」。
「オルフェオ」「ポッペア」に
引けを取らない
雄大な物語となっています。

〔第一幕〕
トロイ戦争から帰らぬ国王ウリッセを、
貞淑な王妃ペネローペは待ちわびる。
出征から20年も経ち、
王妃は求婚者たちに付き纏われるが、
貞操を守っている。
ウリッセは海神の怒りを買い、
苦難の末、故郷のイタカ島に漂着する。
女神ミネルヴァは
ウリッセを老いた物乞いに変身させ、
老羊飼いエウメーテの許に行くように
命じる。

〔第二幕〕
ミネルヴァがウリッセの息子
テレーマコを連れて現れる。
天からの閃光を受けたウリッセは
本来の姿に戻り、息子との再会を喜ぶ。
王妃はスパルタから戻った
テレーマコを迎える。
老人姿のウリッセが
エウメーテに伴われて現れる。
王妃は夫ウリッセの持っていた弓で
最も見事に射た者を
夫にすると宣言する。
求婚者たちはことごとく失敗するが、
老人ウリッセだけが
やすやすと弓を引く。

〔第三幕〕
老人がウリッセであることを、
王妃はなかなか信じることができない。
本当の姿に戻ったウリッセが現れるが、
なお魔術ではないかと疑う。
そこでウリッセは、
二人だけが知っているベッドカバーの
刺繍模様のことを話したので、
とうとう王妃も彼が本当に
ウリッセであることを認める。

1567 Monteverdi

音楽を聴く限り、
やはりモンテヴェルディ
天才だったのだと思わざるを得ません。
ヘンデルの100年前に、
バロック・オペラの様式の
ほぼ全てを兼ね備えた作品を
完成させていたのですから。
「オルフェオ」「ウリッセ」
「ポッペア」の順で聴いたとき、
きわめて短期間で
オペラを進化させていることに
気づかされます。
しかも後年のワーグナーのように
途切れることなく音楽は進行し、
全体として一つの
音楽世界を創り上げているのです。

さて演奏ですが、
歌手たちが頑張っています。
そして主要な歌手たちと
役柄の年齢が近いことが、
リアリティのある表現に
つながっています。
テノールのチャールズ・ワークマンは、
資料によると1965年生まれですので、
風格ある歌声が
ウリッセによく似合っています
(おそらくウリッセはもう少し
年齢の高い老人へと
姿を変えたのでしょうが)。
また、ペネーロペも、
成人した息子がいてなおかつ
求婚者が集まるのですから、
その役柄は40前後くらいでしょうか。
1977年生まれの
デルフィーヌ・ガルーが好演しています。

考えてみれば、当たり前です。
台本の筋書きの多くは、
若い登場人物によるものが
多いのに対して、
オペラ歌手として役柄を勝ち取るには
ある程度の経験を要するために
どうしても歌手の年齢は
上がらざるを得ないのですから。
役柄と歌手の声の雰囲気が
ちぐはぐになってしまうのは
仕方のないことでした。
「椿姫」の映像では、
そのいくつかはヴィオレッタが
年配のベテラン歌手だったり(しかも
太っていて健康体そのものだったり)、
視覚を伴わない方が
ストーリーに没入できるという例が、
オペラには意外と多いのです。

そうなると、ぜひ映像を観てみたいと
思ってしまいます。
実は本盤の演奏は、
映像収録もなされていて、
Blu-rayでも発売されています。

YouTubeで、
PR動画が公開されていました。

MONTEVERDI Ulisse

多少高くても、
そちらを購入すればよかったと
後悔してしまいました。
まあ、「ウリッセ」の映像は、
本演奏に限らず、
近年いくつか登場しています。
いずれ購入して愉しみたいと思います。
それはそれとして、
音楽だけでも十分に愉しめます。
やはり、音盤は愉し、です。

〔関連記事:モンテヴェルディ作品〕

〔「ウリッセの帰還」の音盤〕

(2023.10.1)

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