ブラームス「ドイツ・レクイエム」の一つの形

「ドイツ・レクイエム」+「子供の情景」

何か面白い音盤はないかと探していて
見つけた一枚です。
ブラームスの「ドイツ・レクイエム」です。
特に珍しくはないのですが、
通常の管弦楽伴奏ではなく、
4手ピアノによる伴奏です。それも
いくつか音盤が出ているのですが、
本盤は何とシューマンの「子供の情景」を
挟み込むという
不思議な構成となっています。

「人間的なレクィエム」

「人間的なレクィエム」

シューマン:
 子供の情景 Op.15
ブラームス:
 ドイツ・レクィエム Op.45
  (4手ピアノ伴奏版)
   ※フィリップ・モル編曲
子供の情景~第4曲「おねだり」
ドイツ・レクィエム~第1曲
 「幸いなるかな、悲しみを抱くものは」
子供の情景~第8曲「暖炉のそばで」
ドイツ・レクィエム~第2曲
 「肉はみな、草のごとく」
子供の情景~第12曲「眠りに入る子供」
ドイツ・レクィエム~第3曲
 「主よ、知らしめたまえ」
子供の情景~第13曲「詩人は語る」
ドイツ・レクィエム~第4曲
 「いかに愛すべきかな、なんじの
  いますところは、万軍の主よ」
子供の情景~第10曲「むきになって」
ドイツ・レクィエム~第5曲
 「汝らも今は憂いあり」
子供の情景~第1曲
 「見知らぬ国と人々について」
ドイツ・レクィエム~第6曲
 「われらここには、
  とこしえの地なくして」
子供の情景~第7曲「トロイメライ」
ドイツ・レクィエム~第7曲
 「幸いなるかな、死人のうち、
  主にありて死ぬるものは」
ヤン・ミヒールス(p)
イング・スピネット(p)
サラー・ヴェゲナー(S)
トーマス・オリーマンス(Br)
フラマン放送合唱団
バルト・ファン・レイン(指揮)
録音:2021年1月

レクイエムはカトリック教会における
典礼音楽であり、
通常はラテン語の祈祷文に従って
作曲されます。
ブラームスはドイツ語の
新約聖書・旧約聖書から
テキストを使用して創り上げたため、
「ドイツ・レクイエム」と
名付けられているのです
(したがって日本語訳としては
「ドイツ語によるレクイエム」が
正しいと考えられます)。
そのアイディアは、
ブラームスと親交が深かった
シューマンも構想していた形跡が
あるそうです。
そして、そもそもブラームスが
「ドイツ・レクイエム」を書く
きっかけとなったのは
シューマンの死といわれています。
両者の音楽の融合は、
決して不思議ではないのです。

ただし、演奏会用音楽として
作曲されたとはいえ、
「レクイエム」は基本的には
死者のためのミサ曲です。
一方のシューマン「子供の情景」は、
この世に生を授かって間もない
子どもたちをイメージして
創り上げられた音楽です
(正確には「子ども心を描いた
大人のための作品」)。
正反対の雰囲気を持った
作品どうしであり、
果たして融け合うものかどうか?

「人間的なレクィエム」

聴いてみると、これがまた
なんともいえない素敵な味わいです。
「子供の情景」が見事に
「ドイツ・レクイエム」の各楽章を
繋いでいます。
それを可能にしているのが
4手ピアノによる伴奏です。
ごく自然に「子供の情景」から
「ドイツ・レクイエム」、
「ドイツ・レクイエム」から
「子供の情景」へと移行していきます。
「子供の情景」の幻想的な旋律が
「ドイツ・レクイエム」の幽玄さを
天国的な美しさまで
引き上げているのです。
そして「ドイツ・レクイエム」に聴き取れる
人間の魂の咆哮を、
「子供の情景」が穏やかに
癒やしているように感じられるのです。

4手ピアノの清澄な音色が作り上げる
ハーモニーには、
管弦楽伴奏では決して生み出すことの
できない透明感があります。
原曲ではぼやけてしまいがちな
合唱の輪郭がくっきりと響き渡ります。
作品の持つ緻密な構成が
浮き彫りとなり、ブラームスが
演奏会用音楽として設計した
ポリフォニックな響きの魅力が
際立って感じ取れるのです。

ブラームス自身もこの
「ドイツ・レクイエム」の
4手ピアノ編曲版を遺しているのですが、
そちらは声楽なしの
純粋な4手ピアノ演奏となっています。
本盤はフィリップ・モルによる、
合唱の伴奏を想定した編曲ですが、
そのほかにもいくつかの版があり、
声楽を伴った録音がなされています。

管弦楽伴奏版もブラームスらしさが
現れた傑作なのですが、
4手ピアノ伴奏版も
優れた表現が可能になっています。
そこにシューマン「子供の情景」の
融合版が加わったのです。
愉しみ方がまた一つ増えました。
やはり、音盤は愉し、です。

〔ブラームス「ドイツ・レクイエム」〕

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(2023.11.12)

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