ラッススの「レクイエム」を聴く

レクイエムという大河の上流付近の音楽

「レクイエム」といえば、
モーツァルトのそれを
まず第一に思い浮かべてしまいます。
次いでフォーレ、さらにはヴェルディ、
ラテン語ではないにせよブラームス
「ドイツ・レクイエム」といった
ところでしょうか。
多くの作曲家が創り上げている
「レクイエム」。
その大河の源流は
「グレゴリオ聖歌」なのですが、
そこから流れ出た、
きわめて上流にあたる部分に
位置するのが、
このラッススの「レクイエム」でしょう。

DHM-BOX1

BOX1 Disc24

BOX1 Disc24

ラッスス:
 レクィエム
 モテット「ああ
      いつくしみ深きイエスよ」
 マニフィカト「正しきいとなみにより」
 モテット「恵み深き救い主の御母」
 モテット「アヴェ・マリア」

ブルーノ・ターナー(指揮)
プロ・カンツォーネ・アンティクァ
コレギウム・アウレウム団員
ハンブルク古楽合奏団
録音:1971-1974年

ラッススは、
後期ルネサンス時代に活躍した
フランドル楽派の作曲家です。
当時、大家として
認められていた作曲家であり、
その生涯において
世俗曲・宗教曲については
約2000曲もの作品を創り上げた
多作家だったようです。
近年、作品の発掘、演奏、録音が進み、
音盤もいくつか登場しています。

1532 Lassus

ところが、この「レクイエム」の音盤は、
当盤のほかは、
ガレス・ウィルソン指揮による
ケンブリッジ・ガートン大学合唱団
(2016年録音)の音盤
(こちらは「レクイエム」の間に
いくつかのモテットなどを
挿入するという独特の構成で
演奏されている)しか見当たりません。
本盤はそういう意味では、
貴重な録音といえるでしょう。

プロ・カンツォーネ・アンティクァによる
当盤の演奏は、
録音はやや古いのですが、発表当時から
名演奏としての定評があり、
DHM-BOX第1集に収録されている
理由もわかります。
きわめて安定した合唱であり、
この曲の持つ旋律の美しさと
ハーモニーの自然さを
無理なく引き出しているのです。
特に「サンクトゥス」以降の
美しさと透明さは聴き応えがあります。
モーツァルトやフォーレのそれとは
異なる無伴奏の「レクイエム」の美点が、
最大限に拡大されているのです。
「レクイエム」とは本来
このような曲だったのかと、
音楽を聴く喜びを体感できる
演奏となっているのです。

デジタル録音ではありませんが、
録音は秀逸です。
各声部の美しさが
はっきりと聴き取ることができます。
今後も色褪せることなく存在していく
音盤であると思われます。

難点を上げるとすれば、
カウンター・テナーの声質が
やや先鋭的であり、
耳についてしまうことでしょうか。
(録音の関係なのか、それとも
この時代―1970年代―の
演奏様式によるものなのか、
私にはわかりませんが)。
あまり気になるほどではないのですが、
例えばウエルガス・アンサンブル
(ラッススの宗教的連作マドリガーレ
「聖ペテロの涙」の音盤がある)が
演奏したら、もっと柔らかく
天国的な感触になるのではないかと、
つい想像してしまいます。

併録されているモテットと
マニフィカトも美しい作品です。
後半の3曲は伴奏付きであり、
それまでの無伴奏とは
印象が異なってくるのですが、
こちらも十分に愉しめます。

「グレゴリオ聖歌」と
ラッススの「レクイエム」との間には、
オケゲム(作曲者の判明している
現存するレクイエムとしては最古)、
ピエール・ド・ラ=リュー、
クリストバル・デ・モラーレス、
ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナらの
作品が存在しています。
これらも探して
聴いていきたいと思います。
やはり、音盤は愉し、です。

〔関連記事:ラッスス「聖ペテロの涙」〕

〔関連記事:DHM-BOX(ルネサンス)〕

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(2023.11.19)

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